領主の心労② 455話
「私の方はレイシアが学園と王都でしていることの報告と、ターナーでの教育システムを知りたいので時間がかかります。先にマシュー殿のお話を済ませて頂けるとありがたいですね」
学園長がヒラタの領主に話を振った。どれだけ長い話をしようって言うんだろう。まあ、レイシアについてはこちらも聞かないといけないけどな。
「では、私から話させて頂きます。まずは状況の整理から始めましょう。レイシア様が王女殿下と王妃様の庇護下に入ったことは確認できていますでしょうか?」
「「はあ??」」
待て待て! 王女様は聞いていたが王妃様だと?! それになんでレイシアに様をつけているんだ?
「その様子ではご存知ないようだね。レイシア様の状況は、日々刻々と変わっているんだよ。この情報は学園で王女殿下の側近の一人ガーベラ・サカが私の娘に漏らした話だ。ガーベラは私の従兄弟、グエン・サカの令嬢で、今娘のビオラが彼女から勉強やマナーを指導してもらっているんだよ。その縁でなんとか知ることができたんだ」
そして声をひそめて続けた。
「そこからの内部情報なので、申し訳ないが今は漏らさないで頂きたい。もちろん学園長も。あまりにも大事になる案件のため、レイシア様のお店が軌道に乗るまでは大っぴらにしない方針みたいですね」
「なぜそれを今ここで?」と学園長が聞いた。
あ〜! 知りたくない! 聞きたくなかった。
「お二人とも関係者だからですよ。レイシア様の父親と学園長ですから。それにクリシュ君、君も巻き込まれることになるぞ」
「僕がですか? ……まあ、そうでしょうね」
おいクリシュ。何冷静に受け入れているんだ?
「ターナーは今はまだノーマークだが、社交界にこの話が流れた瞬間から騒動になるだろう。レイシア様と縁を結びたい者が、婚約の申し込みを始めるだろうね。レイシア様だけでなく弟の君にもだ。サカの領主グエンが、第二夫人では無理だと早々に諦めていたからどれくらいの話か分かるか? 君たちはたとえば侯爵から同時に三件申し込まれて選べるのかい? 断れるか?」
侯爵家から婚約? ありえないだろう?
「でもターナーは子爵領ですよ。好き好んで来るのは同じ子爵か男爵くらいではないのですか?」
そうだクリシュ。わざわざ伯爵以下になろうなんてそんな上級貴族がいるわけないよな。
「王妃の庇護下に入ったんだ。子爵でいられるわけがなかろう! 遅くても来年には伯爵への陞爵を提案されるだろう。断れるか? 王妃直々の命令に」
待て待て! 俺は反論した。
「しかし、ターナーはまだ王国に借金が残っている。レイシアにだって億単位の借金があると聞いている。国に借金があるうちは爵位が下がることはあっても上げる事はできない。そういう決まりのはずだ」
そう。まだ災害復興中の扱いで降爵を免れているターナーだ。上げる事は出来ない。
「そんな事は些細なことだ。陞爵の祝いとして借金を棒引きするか、レイシア様に残りの借金と同額の金を報奨として渡すか。あるいは彼女を信望しているご婦人方や、貸しを作りたい他領から支援が殺到するか」
支援という名の首輪か。いやだな。
「諦めろ、クリプト・ターナー。この流れは止められない。そしてクリシュ君。君はこれから山ほど来るであろう婚約の申し込みにどう対応する?」
「なるほど。そうですね……」
クリシュ。なにヒラタの領主とにこやかに笑顔で圧をかけ合っているんだ。
あ、クリシュが動いた。何をする気だ?
「マシュー・ヒラタ伯爵。私クリシュ・ターナー子爵令息、身分の差を失礼する無礼を承知しておりますが、ご令嬢のビオラ・ヒラタ嬢に婚約を申し込みます」
おい! 膝まづいてなにを勝手に!
「ふふふ。さすが娘が見込んだ男だ。判断も行動も早い。よろしい。認めよう、クリシュ・ターナー。クリプト・ターナー子爵。これで我がヒラタとターナーは親類同様になった。現在爵位が上の私が借金まみれのターナーを放置するわけにはいかないな。支援策について話し合いたいのだが、何やら学園長とも話し合いがあるようだ。どうだろうクリシュ君。二人で素案くらいはまとめてみないか? 君の能力も見てみたいし」
「いいですね。お父様はお忙しいですし、僕も未来のお義父様を知りたいと思っていたのですよ」
だから、二人で圧をかけ合うな! っていうか二人で決めるな! いいのか、婚約だぞ! まだ早くないか!? クリシュ、お前好きな子とかいないのか?
「ではお父様。執務室、お借りしますね。ターナーの現状が分かる資料が揃っていますから」
「でしたら、私もサポートいたしましょう。部外秘の資料もございますので」
おい! セバスチャンまでやる気になるな!
「できる家令をお持ちですな。わが娘の嫁ぎ先として心強い。娘のためにターナーが発展できる協力なら惜しむ気はない。約束しよう。ではクリシュ君、案内を頼む」
「分かりました、お義父様こちらへ」
「ふっ、お義父様か。気が早いな」
お、俺はいいとも悪いとも言ってないぞ! ああ、笑い合いながら行っちまった。
「お気持ちは分かりますが、反対できないですよね、あれは…」
学園長が気を使って声をかけてくれた。
クリシュ。お前、本当にそれでいいのか?
レイシアにクリシュ。お前ら好き勝手にやりすぎだ!
俺はお前らをそんな風に育てた覚えはないぞ!
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