四章 素敵な弟 65話

 ターナー式メイド術修行で、クタクタに疲れ果てているサチに、クリシュが近づいてきた。


「サチさん」

「クリシュ様、どうしました?」


 サチの修行は形になってきた。ちゃんとクリシュ様と言える!


「サチさん、お願いがあるのですが」

「はい?」


「僕に『素敵な弟計画』を教えて下さい」

「はあぁぁぁー?」


 サチのメイド修行の仮面はここで外れてしまった。


「何、その『素敵な弟計画』って」

「お姉様が、旅立つ前に言ったんです。素敵な弟になりたかったら、サチさんに相談しなさいって」


 (レイが言った? 素敵なおとうと…………? 素敵なお姉様計画! アレか!! アレを弟に? 無理 絶対無理!)


 とにかく、サチは疲れていた。そしてレイシアの無茶振りに精神までやられてしまった。あくびを噛み殺しながら、クリシュに言った。


「そうね。レイシア様は掃除から始めたわ。教会のお掃除がちゃんとできるようになったら、次の事教えるわ」

「掃除ですね。ありがとうございます」

「じゃあ頑張ってね〜」


 おざなりな挨拶をして、サチは部屋へ戻って行った。



 次の日から、クリシュは掃除に夢中になった。


 初日、礼拝席のテーブルをきれいに拭いた。

 二日目礼拝席のテーブルを更にきれいに拭いた。

 三日目礼拝席のテーブルをこれでもかというほどきれいに拭いた。

 四日目……

 五日目……


 一週間で、新品のテーブルよりキレイなテーブルになった。


 そこから、掃除道具の研究、効率的な方法、洗剤の研究などを重ね、教会はみるみるきれいになっていった。


◇◇◇


 サチが教会に顔を出した。


 「なんじゃこりゃ~~~」


 きれいに光り輝く教会を見たサチは、デジャブなるものを感じた。


 「あ、サチさん。どうですか、掃除。合格ですか?」


 サチは固まったままなにも言えなかった。


「まだですか。では……」

「もういいから! 合格、合格よ!!!!!!」


 (こいつにも、アレレイシアのヤベエ血が入っているのか)そう思ったサチはクリシュの次の行動を受け戦慄した。


「合格ですか! ありがとうございます。では次は、神父様に頂いた「正しいお姉様計画の冊子によると……」

「だめぇぇぇぇぇ――――。ぜったいだめぇぇぇぇ!!!!」


 サチは叫んだ! もう二度とあんな化け物、作ってたまるか!


「あ、あなたがなりたいのは『お姉様』なの?」

「違います」


「違うよね。弟よね。だったら、その本はだめ。よこしなさい」

「えっっっっ!」


「よこしなさい! そういい子ね……。そう、あなたがなりたいのは、優秀な姉の弟。それでいいのね?」

「そうです! お姉様みたいになります!」


「だめよ! あなたは、お姉様の足りないところをおぎなうの。それでこそ、理想の姉弟だと思わない?」

「お姉様の足りないところ? そんなところはありません」


「いいえ! 彼女に足りないのは……。人付き合いと、愛想のよさよ!」

「……」


「何でも一人でできるから、甘え方が下手なの! 甘え上手になりなさい! いいこと、姉の足りないところを補ってこそ、理想の弟よ!」

「はい!!」


「では、明日から甘え方を研究実践する! よいな! 私が先生だ!」

「はい! よろしくお願いします」


「では、今日は明日のために休むように」

「はい」

「では解散」


 そう言って、サチはクリシュから離れた。

 とにかく今は何としても離れたかった。

 ただ、それだけだったのに………………。


 サチの気苦労と、クリシュの魔改造は、ここから始まるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る