ガイジン

 七菜は客の相手をしていた。七菜はまだ新米なため、仕事場は大部屋だった。そこかしこから、同じ遊女たちの妖艶な声が聞こえてくる。七菜の客は東北からきたと言った。訛りが酷くて会話が成り立たなかったが、七菜はいつものように笑顔で客を楽しませた。

 「七菜さん、オラと一緒に津軽さ行って一緒に暮らさねか。」

その男はもう七菜にどっぷりハマっていた。

 「ごめんなさい、わたしはここから出ることはできないの。喜介さんの気持ちはとても嬉しいけど。」

七菜は猫のような甘い声でそう言った。

すると奥から花車が血相を変えて近づいてくる。七菜は自分が何かやらかしたのかと、ドキドキした。

 「七菜、あんたをね、指名してきた客がいるんだよ。早く準備しな。」

指名?七菜はまだ新米、そんな指名をされるような遊女ではなかった。七菜は嫌な予感がした。まさか、あのガイジンじゃないだろうね。七菜はさっき箏を演奏したとき、凄いうっとりと聴き入っている、目の青い顔を思い出した。東北の田舎者の次はガイジンか。七菜はもううんざりだとは思ったが、仕方ない。わたしに選ぶ権利などない。七菜は急いで大部屋を出て行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る