遊女の一生

 「七菜、もう寝た方がいいよ。何やってるの?」

七菜と同時期に遊女となった花梨が声をかけてきた。

 「コオロギ、綺麗に鳴いているなって思って。」

 「七菜って本当不思議よね。よくそんな優雅なこと言ってられるって思う。」

七菜は苦笑いした。

 七菜は自分が音にとても敏感だと言うことを感じていた。それに、七菜ほど箏を操れるものはいなかった。七菜はもちろん、遊女としての仕事もしていたが、その箏の技術がもてはやされ、箏のみの仕事もたくさんあった。

 そろそろ寝ないとな。また地獄のような忙しい一日が始まる。七菜は布団に入った。

 目が覚めて、外を見るともう太陽はすっかり上に上がっていた。七菜と花梨は忙しく準備を始める。

 「七菜、花梨、ちょっと。」

花車が二人に手招きした。

 「夜風の様子を見てきてくれるかい。」

 「夜風姉さん、だいぶひどいの?」

花梨が心配そうに言った。

 「昨日、お医者様に診てもらったんだけどね、もう仕事に戻るのは難しいそうだよ。」

夜風とは一時花魁にまで登り詰めた遊女だった。しかし、梅毒になってしまったのだ。

 「夜風姉さん、入るよ、気分はどう?」

そう言って二人は部屋に入ったが、夜風の姿を見て花梨は吐きそうに出て行ってしまった。夜風の顔は赤く腫れ上がっていた。そして何かわからないことをぶつぶつ言っていた。七菜は夜風に近づいて、着物を脱がし、身体を拭いてやった。

 「姉さん、こんなになってしまって。」

七菜は自分もいつかこんな風に最後を遂げることになるのかと思った。しかし、七菜は何も感じなかった。これがわたしたちの運命なのだ。逃げることは叶わない。七菜は夜風の背中を優しく摩ってやった。

 「ありがとう、七菜。」

夜風は力無く言った。

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