僕と“永倉”。※改稿版

崔 梨遙(再)

1話完結:約1000字

 僕が30歳を過ぎた頃、マンションの1階に大きめの段ボール箱が置いてあった。僕はスグに中身がわかった。犬か猫、多分、猫だ! ゴトンゴトン、段ボール箱が揺れている。多分、箱から出たがっているのだろう。


 気になる!僕は犬も猫も大好きだ。


 いつもなら、見ない。見たら放っておけなくなるから見ない。だが、何故か? その時はソッと箱の中を覗いてしまった。


 嗚呼!黒猫だ。しかも小さい。子猫だ。


 僕は、子猫を抱き上げた。左足がダラリと垂れ下がっている。生まれつきなのだろうか?この子猫は片足に障害を持っている。僕は、ため息をついた。


「見ちゃったもんなぁ……」


 僕は子猫を部屋に入れた。とりあえず、牛乳とキャットフードを買って来た。子猫は美味しそうに牛乳を飲んでいる。かわいい。だが、そのマンションはペット禁止、いつもペット禁止のマンションに住むので、ずっとペットを飼えなかったのだ。


 かわいくて、側に置いておきたいが、飼い主を見つけなければならない。だが、まず名前を付けよう。僕は子猫を“永倉”と名付けた。新撰組の隊長の名前だ。うん、我ながらなかなかのネーミングセンスだ。


 それから、友人、知人に連絡しまくった。とにかく飼い主を探した。多くの人のお世話になった。友人が、僕の知らない友人に聞いてくれた。知人が、僕の知らない知人に聞いてくれた。かなり多くの人を巻きこんでしまった。だが、巻きこんだだけのことはあった。知人の知人が引き取ってくれることになった。片足が悪くても構わないということだった。ありがたいことだ。


 永倉を拾ってから約2週間、僕は知人の知人に永倉を手渡し、“よろしくお願いします”と“ありがとうございます”、何度も頭を下げた。


 僕は、永倉と過ごした2週間を忘れない。猫のいる生活はめちゃくちゃ楽しかった。飼い主が見つからなければ、ペットを飼ってもいいマンションに引っ越そうかと思ったくらいだ。まあ、良かった、良かった。



 その後、永倉は片足を引きずりながら自分より大きな猫とも喧嘩するくらい元気に成長し、十年以上経って天寿を全うしたとのことだった。だが、飼い主は引き取ってスグに、名前を“永倉”から“ジュニア”に変えていたらしい。







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僕と“永倉”。※改稿版 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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