第67話 フルーツカレー

「ほう、おもしろいじゃねーの」


里長がリンデンの提案に笑みを浮かべて答えた。

香辛料、そして肉や野菜などの材料を調達し終えて里へと帰ってきた俺たちは、その足で里長の元へと来ている。

そうして話したのはスカルスプリングの女王討伐作戦時に"俺とリンデンがタッグで動く"というものだった。


「だが、できるのか? スカルスプリング側の精鋭は3体とはいえ、1体1体のレベルが65と高い。もともとはそいつら1体に対して精鋭賢者3人で相手してもらうつもりだったんだぜ?」


「ええ、できます。俺とこのカイならば」


リンデンは淀みなくそう答えると、俺に目で問いかけてきた。

俺もまた頷いた。


「できる。リンデンがいるならな」


というかリンデンがいる限り負ける気がしない。

そう思えるのは、先ほどの食材調達で改めてその強さを肌で感じてこそだ。

スカルスプリングとは俺が最初に倒した後も3回ほど遭遇して……

その全てを瞬殺して見せたのはリンデンだった。


森の賢者の打撃スキルの奥義、"ゴリバック・ボム"。

プロレスのバックドロップとパワーボムを複合したような大技であり、スカルスプリングたちは腰を掴まれるなり砕かれ、そのまま持ち上げられてリンデンの背面の地面へと叩きつけられると粉々の塵と化して消えていった。

その間、発動からわずか1秒。

まともに喰らえばたぶん、カレーバフのかかってる俺でも即死だろう。


……なんならリンデン1人でスカルスプリングの精鋭にも勝てる気がするんだがなぁ。


まあ、そんなリンデンをして警戒しているスカルスプリングの精鋭なのだから、きっと今の俺じゃ想像もつかないほどに強いのかもしれないが。


「……分かった。ならお前たちに任せる。頼んだぜ」


俺たちの返答へと里長は満足げに頷くと、座敷から立ち上がる。


「どこへ?」


「ちょいと明日のウォーミングアップを、な」


グルグルと太い肩を回して、里長はニヤリとした笑みを浮かべる。


「明日を楽しみにしてな、カイ。景気よく女王の頭を吹き飛ばしてやるからよ」


「おお……!」


正直別に戦闘とかグロとか特別好きなわけじゃないんだが、にしたってレベル80の里長の戦いのスケールがいったいどんなものになるのか気になりはする。


「うっす。楽しみにしてるっす!」


「ウホホッ、任せとけ。カイには俺と精鋭たちの分のカレーの仕込みも任せたぞ?」


「めっちゃ美味くて強いの作っときますよ」


女王討伐作戦の決行は明日に決まった。

俺はその日は入手した材料を使い、しっかりとパラメーターを上げる効果のカレーを三食作って参加者の人数分をキープ。

その後、余った香辛料を使ってリンデンのご家族にもカレーを振る舞うことに。


「フルーツカレー、たぶん好きだと思うんだよなぁ」


クサみの少ない森ブタのサイコロ肉を、肉汁を内側に閉じ込めるように弱火でじっくりと焼く。

それに辛みを持たないたっぷりの香辛料で香りづけをしたら、ひと口サイズにカットしたリンゴとパイナップル、バナナを入れて炒める。

具材にヒタヒタになるくらいの水、それに干しブドウを加え煮立たせて、仕上げにレモンを少々垂らして香りに爽やかを出したら完成だ。


「お待ちぃ! "森だくさんフルーツカレー"を召し上がれ!」


「おおっ……これはすごい」


少し冷ましたものを木の器に盛りつけて持っていくと、リンデンたちはみんな珍しそうにカレーに見入っていた。

賢者の里で料理と言ったら、生肉に塩・砂糖や香辛料などで味付けしたり、あるいは潰した果実を使ったジュースやアイスを作るくらいで加熱調理はしないのだそうだ。


「ふー、ふー、ふー……」


充分に冷ましてはいたけれど、それでも充分賢者たちにとっては熱そうに思えるらしい。

息をかけながら木の器に口を付けてカレーを流し込む。


「おぉ……! ウマイ!」


リンデンが目を見開いた。


「口に入った瞬間に広がる爽やかな香りに乗って、爽やかな甘さが鼻から抜けていく……!」


よかった。

甘いもの好きだという賢者の口に合ったようだ。

奥さんも賢者キッズたちも美味しそうに具材を味わっている。

キッズは特に焼き目の入ったバナナに夢中のようだ。

一方でリンデンの方は肉が気に入ったようで、


「森ブタの嚙み応えがいいなぁ。塩味がしっかりと効いていて他の果実の甘さに飽きがこない……これは明日の討伐作戦用のカレーにも入っているのか?」


「明日飲むカレーはスープだけだよ。具材が入ってたらすぐに飲めないだろ?」


「そ、そうか……」


そう聞いたリンデンは心なしか少ししょんぼりとして見えた。

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