第28話 空腹のリング

ボンジリとカイは迷いの森をひたすらに進む。

歩いて歩いて歩いて──

モンスターにエンカウント。


「せぇいッ!」


カイが活き活きと短剣を振るう。

その巨大なハリネズミモンスター、

ニドラーを討伐。


「よっしゃあっ!!! 肉ゲット!!!」


「火は任せといてやぁっ!」


2人は薪、火、グリルスタンド、鍋、水を速攻で用意し始めた。

即行のカレー調理が行われる。


「ニドラーのピリ辛カレー、お待ちどう!」


「舌を刺すような辛さっ、でも後引いて美味ぁっ!」


「美味い美味い!」


2人でガツガツ平らげてごちそうさまでしたと手を合わせ、

再び森を直進。

ひたすら前へと進んで──

モンスターにエンカウント。


「でりゃあッ!」


カイが速攻で短剣を振るう。

シカのような角を持った豚モンスター、

デアホーンを討伐。


「肉ゲットぉぉぉッ!!!」


「またかいな、早いなっ!?」


グツグツグツ。

瞬く間にカレーが煮込まれる。


「デアホーン角煮風カレー、お待ちぃっ!」


「脂が甘ぁっ! 肉がフルーティーやっ!」


「美味い美味い!」


2人でガツガツ食べ進める。

そうして再びごちそうさまと手を合わせ、

さらに森を直進。

テクテクテクと森の端を目指して──

モンスターにエンカウント。

カイがカメレオンのようなモンスター、

フォレスティと対峙。


「よいさぁぁぁっ!!! って、アレっ!?」


フォレスティは自身の色を変えて周りの景色と同一化、カイの攻撃は空ぶった。

直後、青い光が輝く。

カイの攻撃がパリィされていた。


「モンスターも俺の攻撃をパリィできんのっ!?」


「気を付けや、カイ君! そいつカウンター型のモンスターやで!」


初の苦戦──

するかと思いきや、そうでもなかった。

フォレスティがカウンターで出してきた攻撃にカイ君も合わせてパリィ。

結局は一方的に討伐する。


「爬虫類肉ゲットぉぉぉッ!!!」


勢いそのままに進めていたグルメ配信、

コメントの数は上々。


>すげぇ順調www

>強すぎっ!!!

>また肉ドロップで喜んでて草

>普通は装備強化の素材欲しがるでしょw

>次はどんなカレーを作るんだ?


などと続々と流れてくる。

この珍しい形の配信はやはり人目を引き、

どうやら拡散もされているらしい。

同接数も順調に増えて今や再び1000を越えた。

それにしたって、しかし。


「よっしゃあ、カレー作るどー!!!」


「待て待てぃ。グルメ配信とは言うたけれども、どんだけ喰うねん」


ボンジリは自身の腹を押さえつつ、


「もう満腹度ゲージが満タンで喰えへんやろ」


LEFにおける初心者プレイヤーの満腹度ゲージは初期状態で3食分。

それ以上はモンスターを何体か討伐して体を動かしたり、イベントをこなすなどして時間経過を待ち満腹度ゲージを減らさないと料理が食べられない仕様である。


「カイ君かてそうやろ? もうちょっと後にせんと……」


「いや、俺は喰えるよ」


「そんなわけないやん?」


「いやいや、ホラ」


カイはそういうとステータスボード、満腹度ゲージを見せてくる。


満腹度:1/3


「ホンマやっ! なんでぇっ!?」


それはどう考えてもおかしかった。


「カイ君は俺と同じ量の、いや、というかそれ以上のカレーを喰うとったやんか……!」


配信前に食べていたカレー、

フォグドッグのカレー、

ニドラーのカレー、

デアホーンのカレー。

最低でも4食は食べているハズだ。


「ああ。それはコイツのおかげかな」


そう言ってカイが見せたのは、指に嵌めたリングだった。


「何かの効果装備か? 見たことのない模様やけど」


「これを着けてると料理の手動生産時に満腹度ゲージを減らしてくれるんだよね」


カイはステータスボードを開き、見せてくれる。

その装備の名は──【空腹のリング】。


「空腹のリング……? それ、なんやどこかで聞いた名前のような……」


>空腹のリングか。聞いたことないな

>あれ?俺は聞き覚えあるな・・・

>王都で買えるアイテムにあったっけ?

>無くね?

>掲示板か何かで話題に上がってたような・・・?


コメントも聞き覚えがある・見覚えがあるみたいな情報が続々と流れてくる。

まあともかく、


「カイ君はそのおかげでカレーを作れば作っただけ喰えるっちゅーワケか」


「そゆこと」


「そうか……ほんなら1回、グルメリポートをカイ君にお願いしてもええかな?」


「いいぞ」


「丁寧に味を伝えるんやで?」


「おーけー、任せてくれ」


カイは自信ありげに請け負うと、

フォレスティ入りのカレーを作り上げ自分の分の深皿へと注ぐ。

そしてひと口、パクリ。


「超美味い! 超美味い!」


「ド下手やんけっ! お約束過ぎるわ!」


そのカレーについては後日レシピを提供してもらうことになり、

ボンジリはその時にでも味をリポートすることにした。


>グルメ配信の癖に謎の疾走感あって草

>カレーの可能性を感じた

>次は何をカレーにしてくれるんだwww

>ところで空腹のリングの件、誰か分かった?

>まだ分からんな

>俺LEF攻略掲示板探してくるわ

>そうなんよ。掲示板で話題になった気が…

>雑談掲示板で聞いてみるか


視聴者も充分に楽しんでくれる。


……同接数も1500に迫ろうとしとる。やっぱり俺の狙いは正しかったんやな。


ボンジリは確かな手応えを感じつつ、

カイの手料理の後片付けを進めながら今後の配信方針について考えるのだった。

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