第18話 同級生

「え、その治安維持をするクランに? なんで?」


「宵の明星だ。君はどこかおもしろい特徴を持っている気がする。他の大手クランに行かれるくらいなら、ぜひウチでその才能を開花してもらいたいと思ってな」


エリフェスはそう言って笑う。


「もし入ってくれるなら、モンスターの討伐クエストも手伝ってやれるが……どうだ?」


「それはありがたい申し出なんだが、ごめん。クランには所属できない」


「ふむ、そうか……いちおう理由を聞かせてもらってもいいだろうか?」


「俺はひたすらにカレーを作って食べていたいと思っている。だから、悪いけど治安維持活動に協力する時間は無いんだ」


「カ、カレー……? カレーでウチの勧誘を蹴るのか、君は……」


エリフェスは一瞬目を見開くが、その直後に笑った。


「変わったプレイヤーだとは思っていたが、想定以上だ。まあいい。気が変わったら連絡してくれたまえ」


エリフェスはそう言ってステータスボードを開いた。

プレイヤーIDが表示される。


「フレンドになろう。私は君のこれからの動向が気になるんだ。対価として、私からはまだ宵の明星だけが把握している、まだネットに転がしていないモンスターの情報などを特別に提供しよう」


「え、いいの? じゃあぜひ」


動向を探られるのは別に構わない。

カレーを食べるのを妨害されるわけじゃないからな。

それと引き換えに美味しいモンスターの情報などが手に入るなら安いものだ。

俺はエリフェスをフレンド登録した。


<称号獲得:初めてのフレンド>


「今その称号を手に入れたのか……本当にカレー以外に興味を持っていなかったんだな、君……」


「当然」


エリフェスにそう応じていると、


「──あっ、あのっ!」


ちょっと後ろの方でずっと突っ立っていたままだった女の子が、声を上げた。


「カイさん……いえ、カイ君!」


「えっ? えっと……」


さっきからエリフェスの後ろにずっといるなぁ、とは思っていたけど……

この子はいったい?


「ああ、彼女は"カルイザワ"。君と同じ初心者なのだが、ちょっとした不注意で君がハルに狙われるキッカケを作ってしまったらしくな、それの償いに来た子なんだ。私から言えたことではないかもしれないが、どうか謝罪を受け入れてあげてほしい」


「はぁ、そんなことが……俺はぜんぜん気にしてないけど」


それよりも気になるのは、俺のことを"くん"付けで呼んでるってことだ。

それに……あれ?

俺、"カルイザワ"の声をどこかで聞いた気が……


「カイ君、この度は私の不注意で迷惑をかけてしまって本当にごめんなさい」


「あ、ああ……いいよ。問題なかったし」


「ありがとう。無事でよかった……それでね、カイ君」


カルイザワはやはり俺の聞き覚えのある声で、


「あなたの声を聞いて、あとそのカレーへのこだわり様も見てて分かっちゃったんだけど……カイ君って、もしかして……」


「えっ?」


「あの、ほらっ! 私の名前もキャラメイクもボイスも、ほとんどが"リアルそのまま"なんだけど、分からない、かな……?」


「……あっ!?」


俺はそこまで言われてようやく気が付いた。

声に聞き覚えがあるだけではない。

普段の服装と違うだけで見覚えすらあるじゃないかっ!


「カルイザワって、まさかっ!?」


「うん、そう! 私だよ、"軽井沢"!」


軽井沢かるいざわ絵里えり

彼女は俺の高校の同級生であり、友人のひとりだった。

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