第12話 無償の善意
「さて、今日もカレー喰うか!」
3連休の最終日、月曜日。
俺は今日も今日とてLEFにログインしている。
今日の目的は──討伐クエストだ。
どうやらモンスター素材の肉でカレーが作れるらしい、とは料理長のありがたいお言葉だ。。
なら、当然喰いたいと思ってしまうのがカレーオタクというものだろう。
モンスターカレーがどうしようもなく喰いたい!
……昨日のイベント後は少し"バフ"について試しておきたいことがあったから、そっちで時間を取られて討伐クエストまで手を出せなかったからな。まあ、追加でカレーを作ったおかげでレベルは6から7に上がっているけれど。
「今日こそは討伐クエストを受注するぞ……!」
さっそく、王都の市場へと向かう。
俺がこれまで受けていたのはおつかいクエストばかりだったが、他にも討伐クエストもそこそこあったはずだ。
意気込みも強く市場へと足を踏み入れようとして、
「──あっ、いたいた」
横から唐突に声がかかる。
なんだ?
振り返った先にいたのは、見るからに強そうな装備に身を包んだ男。
「キミあれでしょ? ここで周回してるカイ君でしょ?」
「はい……?」
「いやさ、LEFの攻略掲示板でキミのことが話題になってたんだよね。俺と同じ新規プレイヤーなのに、何故かサブクエばかり周回してる新規プレイヤーがいるって」
どうやらNPCではなくプレイヤーらしい。
名前の部分が青色だから間違いない。
プレイヤー名は"ハル"と読める。
レベルは10。
俺と同じ、新規プレイヤーというのは確かなようだ。
「確かに俺はサブクエ周回してるけど……何か用?」
「サブクエってさ、マネー稼げなくない? 俺といっしょに討伐クエスト行こうよ。討伐クエは稼げるぜ~?」
「え……いっしょに?」
「俺けっこう王都の討伐クエスト結構やり込んでるしさ、いろいろと教えられると思うよ?」
「……」
なんか妙に馴れ馴れしいな。
裏がありそうな気がしなくもない。
まあでもこのハルの言う通り、俺は確かに討伐クエストの勝手はまだ分かってないし……
字句をそのまま鵜呑みにするのであれば、ありがたい提案ではある。
「ねぇ、なんか迷う要素ある? このゲームって基本マネー無いと何もできないし、カイ君にとっては良い話じゃない?」
「……そうだね。じゃあ、ありがたくご一緒させてもらおうかな」
話に乗ってみよう。
まあ何だかんだ言ってもただのゲームだし。
多少のリスクくらいなら取っておこう。
「よっし決まり。じゃあさっそく受注しに行こうぜ」
「あ、その前にひとつ聞きたいんだけど、俺といっしょに討伐クエスト行く上でのハルさんのメリットってなに?」
「え、俺? 別にメリットなんてないよ。ただの善意だから、コレ! せっかくなら新規プレイヤー同士、仲良くゲームを楽しみたいじゃん?」
ハルはそう言ってケラケラと笑っていた。
善意、ねぇ。
あいにく俺、善意は善意でも"無償の善意"ってヤツは信じないタチなんだよなぁ……
プレイヤーIDを元に、ハルのフレンド登録数を覗き見る。
俺と同じく0人。
仲良くゲームを楽しみたいってスタンスのヤツがフレンド0?
何の冗談だ?
「さ、俺がいつも受けてる討伐クエは市場じゃなくてモンスター素材屋のヤツだから、こっちこっち」
俺をハメる気じゃないか、コイツ?
目的が分からないけど……
まあ、だからこそある意味勉強にはなるかもな?
何をする気か……
とりあえず泳がせて様子を見てみよう。
あ、でも大事な確認事項がもうひとつ、
「ところでハルさん、そのモンスター素材屋ってイノシシとかウサギみたいな相手の討伐クエストってある?」
「無いな。そういうのは市場にある。これから俺たちが受注するのはゴブリン討伐クエストだ」
「えぇ? じゃあ市場のにしない? ゴブリン相手って……俺ちょっとイヤなんだけど」
なにせゴブリンには可食部ないし。
たぶん。
「いや、ゴブリン討伐クエストの方がいいって」
しかし、ハルは頑なだった。
「初心者ってやっぱ知性のあるゴブリンを相手にするのにビビリがちなんだよね。そういうのは早く克服しといて方がカイ君のためになるから」
「いや、そういうワケじゃ……」
「あと俺、ゴブリン素材必要でさぁ。頼むから手伝ってくれない?」
「……はぁ」
なんか突然ゴブリン素材を集める手伝いになったな?
この人、"無償の善意"とやらで俺と討伐クエに行くんじゃなかったっけ?
まあ、いいや。
頼みを無下にする理由も無いし。
とりあえず今回だけ、と割り切ってゴブリン討伐クエストに行くことにした。
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