俺だけカレーを作ってレベルアップ!~味覚を失った俺、VRMMOでカレーを楽しんでいただけなのに気づけば有名プレイヤーになってたらしい?~

忍人参(NinNinzin)

第1話 プロローグ

「パイナップルとアボガドのカレー……不味いッ!!!」


うっそうとした森の中、俺の声がこだました。

あまりの味のアンマッチさに、思わずガッツポーズ。


「合わなかったなぁ! 鳥肌立ってるし、HPとスピードが減るデバフもかかってるし、没だね没」


アイテムボックスからレシピノートを取り出して"レシピ"と"効果"をメモ。

それから目の前の小鍋に入ったそのパイン&アボガドのカレーを何とか食べ切った。

ここがいくら"VRゲーム内"とはいえ、食べ残しはあまりしたくない。

さーて、次だ。

次がメインと言ってもいい。

もう1つ火にかけている小鍋、そちらにはつい先ほどこの森で狩ったばかりの固有種"カース・ラビット"の肉とチェリーをココナッツミルクで煮込んで作っているカレーが……


<レベルアップ50→51>


「おっ、できたみたいだな」


レベルアップを報せるシステム音声で、カレーができたことが分かった。

俺が持つ【カレーマスター】の称号の効果で、俺はいま1品カレーを作って食べるごとにそこそこの経験値取得ができるようになっている。


……さあ、"2661食目"のカレーとご対面だ。


小鍋の蓋を取ると、白く濃い湯気と共に薄茶色のカレーが姿を現した。

香りは……

案外悪くはないんじゃないか?

素材からは良い意味でイメージのできない、豊潤な甘さとエスニックさの感じられる食欲を誘う香りがした。


……これだよ、これ。こういう出会いがあるからこそカレーはやめられん!


フルーツカレーや鯖カレー、それら意外な組み合わせのカレーは誰かに試されたからこそ今この世の中に存在する。

俺も、そんな新しい発見に飢えている。


「冷めない内にいざ実食っ!」


小鍋に突っ込んだスプーンを口元に運ぼうとした、その時だった。


「──ひゃぁぁぁ! 誰かっ、助けてぇっ!」


覆い茂る草木を勢いよく掻き分けて、見知らぬ女の子が飛び出してきた。

白い帽子にマントを羽織り、魔術杖を持っている。

魔術士職のプレイヤーだろうか?


「どうかした?」


「あっ、あなたも逃げてっ! まだ追ってきてる……!」


追ってきてる?

何が?

そう問い返す前に、


〔ブモォォォッ!〕


草木をバリバリと突き破って全長3メートルほどのイノシシが姿を現した。

体表が赤い毛に覆われた見たことのない種類だ。


「この森の主よ! 私のパーティーメンバー、全員コイツにやられちゃったのっ!」


「大物だなぁ……。ちょっと離れてて」


そのイノシシのレベルを見る。

65。

おおっ?

今のプレイヤーレベル上限って60だよね?

軽く越えてきてるなぁ……


「離れてて、ってあなた……まさかコイツと戦う気っ!?」


「うん。勝ったらコイツの素材は俺が貰うね?」


「いっ、いいけど……無理よっ!? コイツ、私のパーティーメンバーを、」


「ああ、うん。それはさっき聞いたから。ちょっと離れててよ」


俺はアイテムボックスから液体の入った4つの小瓶を取り出して、その中身を飲み干した。

それらの正体は、

攻撃力増のカレー、

剣捌き向上のカレー、

クリティカル率上昇のカレー、

そしてクリティカル攻撃力増のカレー。

すべて俺が作って食べて効果を実証した【強化付与バフ効果持ち】のカレーだ。


〔ブモォォォッ!〕


イノシシがこちらに突撃してくる。

圧倒的な質量が俺に迫る……が、

こちとら食材集めのかたわら、イノシシ狩りなんてもう何百回とやっている。


「よっ!」


直線の攻撃なんて軽くかわせる。

俺は腰に差していた剣を抜いて縦にひと振り。

その一撃は甲高い効果音と共に黒く輝いた。

クリティカル。


〔ブモォッ!?〕


イノシシの悲鳴が上がる。

その体勢が整う前にさらに追撃を重ねた。

イノシシが振り返って攻撃してくる……

が、ヒラリ。

攻撃を紙一重に躱しつつ、舌なめずり。

イノシシ肉はクセの少ない美味しいジビエだ。

しかも今回は大物でレアモンスターときた。


「楽しみだなぁ……!」


剣を縦に横に、一方的に振るう。

その全てがクリティカルヒット。

そういう"バフ"がいまの俺にはかかっている。

こちらの手慣れた連撃を前にイノシシは1分も経たずに力尽きた。


「すごい……こんなに、一方的に……!?」


後ろで女の子があぜんとしている様子だったけど……

まあ無事な様子だし、放置でいいか。

それよりも、だ。


「さて、コイツをどう料理してやろうか……」


いろいろなレシピが頭をよぎり、

ベストな選択肢が導き出された──

が、しかし。


「あぁっ!? しまった……!」


気付いた。

俺は、気付いてしまった。


「だっ、大丈夫っ!?」


あまりのショックに思わず膝を着いた俺へと、我に返ったらしい女の子が慌てたように近づいてくる。


「ケガっ? それなら私の回復魔法で、」


「違うっ!」


「えっ、じゃあいったい、なにが……」


「俺、こんなにレアなイノシシの肉が手に入ったっていうのに……さっきパイナップルを切らしちゃったんだよっ!」


「へっ?」


「ほらっ、パイナップルといっしょに煮込むとお肉が柔らかくなるって言うだろっ? 新たなカレーの可能性がすぐそこにあるというのに、俺としたことが……!」


「カ……カレーっ!? あなたまさか、このレアモンスター素材をカレーなんかにする気だったのっ!?」


「カレー"なんか"、だと……!? 俺が何のためにLEFレフやってると思ってんだ!?」


フルダイブ型VRのMMORPG、Luminousルミナス Epicエピック Frontierフロンティア──通称LEFレフ

高い自由度、メインストーリーの深さ、高性能AI搭載NPCたちによって広げられる無限のサブストーリー……

人気の理由は様々あるが、しかし。

俺がLEFをやっているのは、このゲームが五感、とりわけ現実同然の味覚を感じられるからに他ならない。

なにせ俺がこのゲームに求めているのは、ありとあらゆる食材を組み合わせた、斬新で刺激的で美味いカレーを味わうこと──


──ただ"それだけ"なのだから!




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新連載です!

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本日朝の7時に次話を更新予定ですので、よろしくお願いいたします!

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