奔放 遥と望 そして〇〇へ

 卒業式が終わった後で、あたしたち三年の元バレーボール部員は体育館に集まり、部内でのお別れ会をした。

 お別れ会といっても、ちょっとしたあいさつと、色紙や花束をもらうくらいの簡単なものなんだけど、学校ではこんなものだよな。

 当然、学校外では真のお別れ会がある。今から凄く楽しみだ。


 学校でのお別れ会が終わり、あたしは望と一緒に昇降口へ向かっていた。


「この学校を歩くのもこれで最後か」


 しみじみと浸っているように言う。実際は大してそんなことはない。


「遥のことだから、明日には呼び出されているんじゃない?」


 望がそんなことを言う。冗談にしても失礼な。


 何か言い返してやろうと思ったその時、窓から校舎裏で一人立っている菜水の姿が見えた。

 窓に近付き、立ち止まってしっかりと菜水の様子をうかがう。


 菜水、あんなところで何を。ん? 何だか泣いてないか?


 校舎裏=告白。一人で泣いている菜水=振られた。


「遥、窓の外を見てどうしたの?」


 あたしが立ち止まったことで一緒に立ち止まった望の言葉を余所に、あたしには一つの仮説が出来上がっていた。


「本陣、あの野郎」


 あろうことか、あのかわいい菜水を振りやがって。菜水が許そうが、あたしは許さん。


 なんて思っていたら、本陣が菜水に駆け寄っていく姿が見えた。

 そして、その後は二人で仲良く話している。菜水の顔にも笑顔が見える。あたしの仮説はどうやら外れていたらしい。


「あれは、遥のクラスの美並さんと本陣くんね。あの二人がどうかしたの?」


 気が付けば、望も窓の外を見ていた。あたしが何も答えないから、痺れを切らして自分で確認したようだ。


「いや、あたしが見た時には菜水が一人だったから気になっただけ」


 泣いていたことは言わなかった。菜水も知られたくはあるまい。


「校舎裏で二人きりかぁ。あの二人って付き合ってるんだっけ?」


 そう思うよな。


「いや、付き合ってはいない」


 本当に、何でだ?


「放課後、クラスで二人きりで毎日のように勉強してたって聞いてるけど」


「ああ、三年の途中からだろ。クラスでも、知らないだけで実は付き合っている派と、付き合っていない派に分かれていたな。あんなに一緒に勉強しているんだから付き合っているって話と、上位にしか分からない効率のいい二人での勉強があるとかなんとかじゃないかって話でな。あたしは付き合っていないことを知っていたけど」


「教えてあげなさいよ」


「言ったけど、お前も教えてもらってないだけだろって言われたんだよ」


「信用」


 なくて悪かったな。


 でも、確定はしていなくても、クラスのみんなは二人はもう付き合っているものとして捉えていた気がする。あるいは、付き合っていないとしたら、早く付き合ってしまえ、か。


 だから放課後は邪魔をしないようにみんな早く帰っていたし、遊びなどにも誘うことはなかった。


 前よりも明るくなった菜水。前よりも取っ付きやすくなった本陣。

 二人にあの微妙な関係がなかったのなら、遊びにも大分誘われていただろうな。

 いや、二人が変わったのは二人がそんな関係になったからで、そうでなければやはり誘われていないのか。特に本陣は。ああ、もうわけわっかんね。


「でも、今日から付き合うのかもね」


 望が言う。

 笑顔で楽しそうに話す二人は、そう見えていてもおかしくはなかった。


 そうか。菜水の涙は、告白を受けてか返事を受けてかの嬉し涙だったのかもしれないな。


「だったら、お姉さんは役目を果たしたようだな」


 冗談ではあるけど、ドヤ顔でそう語ってみせる。


「お姉さんって?」


 分かれよ。


「あたしだよ、あ・た・し」


「仲を取り持ってあげたの?」


「二人と一緒にボウリングに行って、本陣と一世一代の勝負を」


「台無しじゃない」


 本当はもっと色々とあるのだけど、ここは笑い話にしておくとしよう。


 さて、いつまでも覗き見はよくないな。


「そろそろ行くとするか」


「立ち止まったのは遥だけどね」


 全く、よくツッコんでくる奴だ。


 望とは、バレーボールの強豪校への進学が決まっている。もちろん、二人とも高校でもバレーを続けるつもりだ。

 そのこともあって、あたしは言う。


「もう一つ、行くとしようぜ」


「どこへ?」


「全国だよ、全国」


 その強豪校はいいところまでは勝ち進むけど、いまだに全国大会には行ったことがない。


 アタッカーのあたしと、セッターの望、そしてまだ見ない仲間たちと共に旋風を巻き起こしてやるのも悪くない。


 望はぽかんとしていたが、やがて微かに笑って口を開いた。


「遥となら、行けるかもね」


 嬉しいことを言ってくれる。


 あたしたちは歩き出す。


 次の、壮大な目標に向かって——。

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