おまけ 先生方のとある会話

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 疑問点もあると思いますが、とりあえずお読みいただければ。


 疑問点に関しては後書きにて。


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「三年生の担任、お疲れ様でした。前野先生」


 そう言って、後輩教師である後藤は、卒業式後に職員室で雑務をしていた私に話し掛けてきた。


「まぁ、目立ったトラブルもなく終わって良かったかな」


 無難な返事をする。本当のことではあるのだが。


「前野先生のクラスと言えば」


「うん?」


「本陣くんには、定期テストで一度は一位を取らせてやりたかったですね」


 本陣優。担任としては三年生の一年だけだが、本陣くんが一年生の時は別の一年生のクラス、二年生の時は別の二年生のクラスと、一緒に進級したようなものだからよく知っている。ほとんどの定期テストで三位以内に入っていながら、一度も一位を取ることが出来なかった子だ。


「そうだね。安定して一位を取っていた姫川さんに勝ったと思ったら、美並さんに負けたりしてね。すごい僅差だったこともあるし、かわいそうだったね。でも、こればかりはなぁ」


 特定の生徒の点数の底上げなど、できるはずもない。


「でも本陣くんって、模試では学年一位だったことが多いんですよね?」


「ああ、そうなんだよ」


 生徒は全国の順位しか知らないのだが、教師は全国順位が高い生徒のを見比べていたから知っていることだ。


「何でですかねぇ?」


「さて、ね。私たちの作るテストは範囲が狭い上に、その範囲をしっかりと伝えていることが多いからかな。一時記憶が優れていれば、高得点も出やすいというか」


「一夜漬けで何とかなるのもそれですね」


「うん。一方で模試は範囲が広いし、何処が出るのか予想がつきづらいから、永久記憶が重要になってくると思う。本陣くんは一時記憶では二人に劣っていたものの、永久記憶ではまさっていたんじゃないかな? まぁ、私の考えと感想だけれどね」


「前野先生の考えが正しかったとして、一番頭が良かったのは本陣くんだった、と?」


「いや、そこまでは。努力の分もあるし、そもそもどちらの記憶が上とかでもないよ。まぁ、受験には本陣くんみたいな子が向いているかもしれないけれど。実際、あの進学校にもきっちりと合格してるしね。あ、それは美並さんもか」


「後藤先生、ちょっといいですかー」


 話をしていると、別の教師が後藤を呼ぶ声がした。


「はぁーい」


 大きくはあるが、間の抜けた感じの声で後藤は応えた。


「じゃ、前野先生、また後で」


 今度は小さな声で私にそう告げると、後藤は私から離れて行った。


 さて、私も仕事の続きをしよう。


 机の書類を片そうとしたら、自分が今日まで担任を務めていたクラスの名簿が目に留まった。彼の話をしていたためか、真っ先に本陣くんの顔が浮かんだ。


 本陣くん、美並さんとあの高校でも頑張ってね。


 次いで、クラスの他の生徒みんなの顔が浮かんでくる。私は、みんなに想いを馳せた。


 みんな、卒業おめでとう——。


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 本陣が定期テスト以外では一位を取っていたという話。


 ただ、模試の順位が全国順位だけで、校内順位が出ない学校なんてあるのだろうか。この世界のこの学校ではある、としても、本陣は姫川に全国順位を聞きに行ったりしないのかって疑問も。いや、本陣が定期テストで一位を取ったらと考えていた、で解決はするのですが。


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