一位を取ったら彼女に告白する

成野淳司

本編 本陣優

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 テストが順位だけで総合得点がありませんが、仕様です。


 人によって上位の点数のイメージが違うと思い、そのようにしました。


 この世界のこの学校ではそうなんだろう、で問題はなかったとは思いますが、とりあえず。


 後で改訂として付け足すかもしれません。


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 俺、本陣優ほんじんすぐるの中学には、アイドルと呼ぶような超絶美少女がいる。当然、俺も好きだ。


 その子の名前は姫川悠子ひめかわゆうこ


 先日の、一年の一学期中間テストにて一位を取った勉強のできる子でもある。


 俺は十三位。学年で約百二十人中なのだから良い順位と言っていいだろう。だが、姫川にふさわしいパートナーとしては不十分だ。やはり、姫川のパートナーは姫川に勝って一位を取るほどでなければならない。


 一位を取ったら彼女に告白する。


 俺はそう決めた。


 俺は頑張った。遮二無二頑張った。


 そして迎えた、一学期末テスト。


 一位 姫川悠子

 二位 本陣優


 届かなかった。しかし、十三位から二位は大躍進だ。夏休みも経て実力を上げれば、次は勝てそうだ。これは、意外と早く告白できそうだな。


 二学期中間テスト。


 ふふ、手応えはあった。もらったぞ、姫川。


 三位 姫川悠子


 ん? 姫川め。俺だけでなく、誰か他にも負けてしまったのか。いや、三位だろうが俺の気持ちは変わらないぞ。


 二位 本陣優


 え?


 一位 美並菜水みなみなみ


 いや、誰ええええぇぇぇぇっっ!


 待て。この名前、見覚えがある。確か、二度のテストでどちらも十位以内には入っていた奴だ。くっ、思わぬ伏兵がいたものだぜ。


 姫川には勝っている。ならばいいのではないか。


 否!


 俺が決めた目標はあくまでも一位。それを覆しての告白など、愚の骨頂。


 二学期末テスト。


 一位 姫川悠子

 二位 本陣優

 三位 美並菜水


 学年末テスト。


 一位 姫川悠子

 二位 本陣優

 三位 美並菜水


 姫川は二学期の中間テストの三位が効いて頑張ったのか、姫川の一位をその後は崩すことができず、一年のテスト全てが終わってしまった。


 あの中間テストがチャンスだったのに、美並めええぇぇっ。ちゃっかりと三位を取り続けているし、今後も要注意人物だ。


 二年生になる。成程、告白もその成就も、中二こそふさわしいというわけだ。


 一学期中間テスト。


 一位 美並菜水

 二位 本陣優

 三位 姫川悠子


 みなみいいいいぃぃぃぃっっ! またお前かああああぁぁっっ!


 いやいや、障害があってこそ、恋は燃えるもの。美並、お前という障害を、俺は超えて行く。


 一学期末テスト。


 一位 姫川悠子

 二位 本陣優

 三位 美並菜水


 何故だ、何故勝てない。

 何か、何か突破口があるはずだ。夏休み、勉強と並行して考えるんだ。


 夏休み明け。


 分かったことがある。それは、俺が姫川に勝つときは、美並も一緒に勝っていること。そして、負けるときは一緒に負けていることだ。

 思えば、一年二学期の中間テストと、二年一学期の中間テストは十分な手応えがあった。結果、姫川には勝っている。だが、美並には負けている。これはどういうことか。おそらくだが、得意教科と苦手教科が俺と美並はほぼ一緒なのだろう。手応えの正体は、苦手教科が簡単で、良い点を取れたこと。ただ、その幅が美並の方が多かったために、美並には負けることになってしまったと推測する。


 ならば、どうするのか。


 とりあえず、推測が合っているのかどうか確かめたい。俺は、今年一緒のクラスになっていた美並に話を聞きに行くことにした。


 結果として、俺の推測は当たっていた。苦手教科は、ほぼ一緒どころか全く同じだった。そして、話をしていた時に、俺の頭に天啓が降りた。


 美並と苦手科目を一緒に勉強すれば、点数アップが期待できるだけでなく、美並の実力も知った上でテストに臨めるではないか。


 悪いな、美並。俺の壮大なる野望、一位と姫川への告白のために協力してもらう。


 ただ、全て正直に言うわけにはいかない。一位狙いや実力を知りたい思惑は伏せ、姫川にもっと勝ちたいのだが、おそらく苦手教科のせいで負けていると伝え、その克服ということで一緒の勉強を提案した。美並も、姫川より上の順位を取れる可能性が上がるためか、快く承諾してくれた。姫川憎しみたいな奴だとは思われたかもしれないが、姫川を好きなことも隠せて丁度いいだろう。


 そして時折、俺は美並と共に勉強して日々を過ごしていった。


 これは勝つための手段だ。決して卑怯な行いなどではない。さぁ、その結果を俺に見せてくれ。


 二学期中間テスト。


 一位 美並菜水

 二位 姫川悠子

 三位 本陣優


 は?


 しまったああああぁぁぁぁっっ! 俺が考えたメリットは、美並にも当てはまってしまうではないか。ま、まさか、美並はそこまで考えて俺と協力を。恐ろしい女だ。これが悪女か。あるいは魔性か。


 しかし、美並と一度結んだ協力関係を反故にするのはバツが悪かったため、その後も時には一緒に勉強した。


 こちらのメリットを、向こうよりも大きくすれば良いだけのこと。美並も俺の実力を測っていると思うが、決して正確に測らせず、こちらは測れば良いだけのこと。俺ならそれができる。


 二学期末テスト。


 一位 姫川悠子

 二位 美並菜水

 三位 本陣優


 ごふっ!


 馬鹿な。

 美並にも勝てなくなってきた……だと。

 俺は、美並の学力を上げてきただけにすぎないのか。


 力を入れすぎたのか。少し息抜きも必要なのかもしれない。今年の冬休みは、少し休もう。


 学年末テスト。


 一位 姫川悠子


 三位 美並菜水


 六位 本陣優


 ごめん。俺が悪かった。


 三年生。今年が最後。いよいよ後がなくなってきた。だが、俺は諦めない。


 一学期中間テスト。


 一位 姫川悠子

 二位 美並菜水

 三位 本陣優


 ふむ。勉強の習慣に乱れがあって、順位を落とした二年の学年末テスト。その乱れの修正には成功した順位と言えよう。ここからが勝負だ。


 一学期末テスト。


 一位 姫川悠子

 二位 本陣優

 三位 美並菜水


 よし。およそ一年ぶりに美並に勝ち、二位に戻って来たぞ。次こそ、いける。


 二学期中間テスト。


 一位 美並菜水

 二位 本陣優

 三位 姫川悠子


 美並、お前はどこまで俺を——。

 いや、まだだ。まだ終わらない。


 二学期末テスト。


 一位 姫川悠子

 二位 美並菜水

 三位 本陣優


 何故だ。何故。

 一位を取れない呪いにでもかかってしまったとでもいうのか。俺は、告白することが出来ないのか。


 最後の機会。

 俺は全身全霊を込めて、そのテストに向かった。


 学年末テスト。


 一位 姫川悠子

 二位 本陣優

 三位 美並菜水


 終わった。終わってしまった。


 打ちひしがれたまま、俺は高校受験へと臨んだ。この辺においては屈指の公立進学校だ。美並もいる。姫川は、いない。噂にはなっていた。あの学力ならば、受けるのが当然であるかのように思ったものだが、噂通り、志望校はここではないらしい。

 姫川との順位争いは高校で継続、というわけにはいかないようだ。


 俺と美並は、無事に受験に合格した。


 卒業式も終わって、校舎の外では卒業生たちが別れを惜しんでいる。いや、今生の別れでもないのだから、中学生としての最後のお話をしているといったところだろうか。


 俺は美並と話していた。美並は、俺がテストで求めていたのは、姫川への勝利ではなくて一位だったのではないかと推測していた。


 今更、隠すこともない。俺は正直に肯定した。それだけでなく、卒業式後の魔力か、一位を取ったら好きな子に告白するつもりだったとも。すると、思いもよらないことが美並から語られた。


 俺たちの地区では、高校受験の問題は公立では全校共通だ。そして、自己採点の結果ではあるのだが、俺、美並、姫川の三人に限れば、一番点数が高かったのは俺であるらしい。美並とは元々自己採点の結果について話をしており、その後に美並は姫川に確認してみたようだ。


 これは、例外なのか。それとも、いいのか。


 自己採点であること。点数も自己申告であること。それに、他の誰かが俺たちの上をいっている可能性。

 様々な考えが、俺の頭の中を巡る。


 そして、俺が出した結論は、確実ではなかろうと、今はその情報に乗ることだった。


 俺は、美並に「行かなきゃいけない所がある」と伝え、その場を離れた。


 俺は姫川の元へ行き、告白した。


 分かっていた。姫川に気持ちがないことは。だが、伝えずにはいられなかった。


 姫川は、ありがとうと言ってくれた。


 俺こそ、ありがとう。俺の青春には、間違いなく君がいた。


 姫川に背を向けて、歩き出す。


 行き先は帰る場所か、あるいは未来か。


 やがて駆け出した俺には、その先がはっきりと見えていた。



 一位を取ったら彼女に告白する 了?

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