第114話 クヴィラの嫉妬

「迷宮第3層に地底湖が出現した。さらにその湖底には、神殿と思しき遺跡が確認されている。魔王ダーナ・ウェルが禍々しき存在を召喚しようとしているに違いない! 

冒険者たちよ、神殿に巣食う邪悪な存在を排除せよ!!」


第3層の試験運用テストプレイより数日が過ぎました。

あの不具合の修正のため、そしてスペクトくん死亡(またも!)のため、実装スケジュールに遅れは生じたものの、無事、第3層の改装は為されました。


作業がひと段落。

わたし、侍女長クヴィラも平穏な毎日を……と言いたいところですが、未だ事後処理に追われているのが現状です。


なにより、あの邪神像の取り扱い……。


迷宮内で保管すると、他にどんな影響を及ぼすかわからない。

『完膚なきまでに粉々に破壊する』という案も出ましたが(主に筋肉モリモリマッチョウーマンケイティ嬢から)、破片や粉末の状態でも悪影響がある可能性があり、破片の数が把握できなければ、逆に危険。


ということで、王宮側の対呪物用の封印指定宝物庫に保管することになりました。


が、他の呪物と一緒に保管するのは、やはり危ない。

封印指定宝物庫の中でも、特別仕様の保管庫に個別で封印しなければなりません。


特別室の使用には、山ほどの許可証と予算書と、何より仮想敵勢力アンクト寺院の手を借りて封印処置を施さなければ……。


あの女狐ゴモリーが、王宮内を我が物顔で闊歩するところを想像すると、はらわたが煮えくり返ります。


はらわたが煮えくり返ると言えば、あの時のスペクトくんの判断。


あの時、スペクトくんは自分自身の殺害をラーラ・マズール師に頼みました。

……わたしではなく!


確かにラーラ・マズール師は、目的のために手段を選ばない合理性、感情に左右されず行動する冷徹さがあります。


錬金術産業の発達していない、このアーガインで一門の設立を引き受けたように。

自身の衣服さえ医療品に錬成して、村人を救ったように。


そうした彼女の性格、一流冒険者としての信頼を、スペクトくんは短い師弟関係の中で感じ取ったのでしょう。


それは、冒険者に憧れるスペクトくんにとっては、大きな魅力となり得る。

例え、それが最初は恋愛感情でないとしても……。


まったく!

痴女でさえなければ、最大の恋敵となっていましたところです!!


ですが!

わたしとて、副職サブクラス『くノ一』にして、次期密偵頭を率いる身。


『殺して』とお願いされれば、例えそれがスペクトくんであっても……。


……。


いえ、きっと出来なかったでしょう。

それに、スペクトくんはこう考えたはず。


例え蘇る可能性があるとしても、姉同然の女性に弟殺しをさせたくない、と。



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