第6話 魔術掲示板①

「とりあえず、錬金術師アルケミストの件は懸案事項ですが、すぐに解決できるものでもないので一旦置いておきましょう」


魔王様がついていけてないようなので、話を変える。

もう一つの酒場の役割『情報交換』についてだ。


「こればっかりはどうしようもねえな」

「……ですね」

「なんで~?」

「原因はコレです」


右手で魔術サイン描いて、中空に仮想魔術窓ウィンドウを映し出す。

手元に浮かぶ半透明の文字盤を操作して、「魔術掲示板マ・チャンネル」のページに移動する。


「お、お~! 魔術掲示板マ・チャンネル!!」

仮想魔術窓ウィンドウ……本来は中空に魔法陣を描いて呪文を補助したり、自分のステータスを表示するための技術だった。

だが、誰でも少ない魔力でも発動できるため、冒険者ではない一般市民にまで流通するようになった。


近年では通信・転送も可能になるなど利便性が増し、こうした魔術掲示板マ・チャンネルや魔術書籍として活用されている。


仮想魔術窓ウィンドウおかげで便利になりすぎちまってなー、簡単な情報収集ならこれで検索するなり、掲示板で聞くなりすれば事足りるようになっちまった」

「便利になった代償とはいえ、嘆かわしいですね」


話しながら、迷宮攻略掲示板の頁に移動する。

「どれどれ~?」

魔王様が身を乗り出してのぞき込む。


◆◇◆◇


412 通りすがりの冒険者

【急募】グレーターデーモンの倒し方


413 通りすがりの冒険者

あいつらマジで意味わからん、団体で出てきて広域冷気呪文マ・ザムド使ってきよるし……


414 通りすがりの冒険者

しかも頻繁に『仲間を呼ぶ』模様


415 通りすがりの冒険者

ついでに毒と麻痺攻撃持ち……


416 通りすがりの冒険者

運営もうちょっと考えろ!


417 通りすがりのダーナ・ウェル

お~、グレーターデーモンなら、あたし得意だよ~


418 通りすがりの冒険者

なんか、変なの北


419 通りすがりのダーナ・ウェル

あの子たちね~、祈願カナン大祈願マ・カナンの呪文で、相手の呪文を封じるとい~よ♡


420 通りすがりの冒険者

はあ? 呪文だけ対策したって意味ね~だろ! 『仲間を呼ぶ』と毒麻痺も厄介つってんの!


421 通りすがりの迷宮中毒者

いや待て、祈願呪文系の呪文封じは、敵フィールドに作用するから『仲間を呼ぶ』で来た連中も呪文が使えないはず……


422 通りすがりの冒険者

お前は迷宮中毒者ニキ!?


423 通りすがりの迷宮中毒者

毒麻痺も回復役を後衛に下げておけば対処できるから、結構有用な戦法かもしれん……


424 通りすがりの冒険者

でも、祈願呪文系は1回使うと1LEVEL分の経験値引かれるしな~


425 通りすがりの冒険者

あっ(察し)、『仲間を呼ぶ』で呪文使えなくなったやつ延々と倒し続ければ、1LEVEL分くらい余裕で取り戻せる


◆◇◆◇


「何やってるんです、あなたは……」

魔術掲示板マ・チャンネルに冒険者に混ざって、自分の迷宮の魔物の攻略法を書き始めた魔王様を注意する。


「だって~、面白そうな話してたし~」

だからって、冒険者同士の攻略情報のやり取りに魔王様が混ざらないで欲しい。


それにしても、『グレーターデーモン養殖狩り』は、昔はけっこう有名な攻略法の一つだったはずだ。


ほんの10年かそこらで失伝するとは、短命種の時間の流れは我々魔人族ちょうめいしゅには理解しがたい。





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