魔法槍士 飛狛3
遅れて中へ戻る飛狛。意図的に響かせる足音に、双子がやってくるのを察した。
「どうでしたか?」
「膜があるみたいで見えない」
「お前の目でダメなのか?」
膜は二人も察している。だからこそ、飛狛ならわかるかもしれないと思っていたのだ。
彼の目は少しばかり特別なもの。普通の目では見られないものも、見ることができる。
「封じているとかとは、違うのかもしれない。記憶の喪失、とかかな」
自分が忘れているために、力の一部を失っているのかもしれない。
飛狛の考えに、二人も表情を変える。記憶を失っているなら、その理由もあるはずなのだ。
しかし、未来に関わるのは悩むところ。深入りをしてはいけない。未来を知ることは、未来を変えることになりかねない。
自分は平気と思っていても、なにがあって変わるかわからないのだ。
やれることは、あくまでもきっかけを与えること。それだけなのだ。
今のところ、それ以上はやれない。現状が変わったり、違う情報があればまた話は変わるのだが。
三人の意見は一致していた。だからこそ、飛狛はこの双子を信頼しているとも言える。
「飛狛、疲れているんじゃないですか?」
「そうかも」
そして、兄弟当然の関係だからこそ、些細な異変にも気付く。
見せないようにしていたが、気付かれたことには驚きもしない。
「熱はないみたいですが、終わったら少し休んだ方がいいですよ」
働き詰めでしょ、と言われれば苦笑いする。よく見ているな、と彼は思う。ありがたいことだ。
額に触れてきた手も、優しく見てくる眼差しも、こんなときは兄弟から叔父になる。
「俺の休みもよこせー!」
「はいはい。玻璃からは、延期許可を取っておきますね」
笑顔で却下する兄に、弟が鬼と叫んだのは言うまでもない。
深夜の塔内に笑い声が響く。笑っているのは飛狛と夜秋で、ムキになって怒ってるのは秋星。
「うちはまだガキが小さいんだよ! 休みよこせー!」
「あははは! 玻璃なら気にしなくていいよって言っていましたよ」
「なっ……」
絶句する秋星に、夜秋が嫌な笑顔を浮かべている。遊ばれているのだ。
(まったく、変わらないなぁ)
呆れながら飛狛は部屋へ向かう。付き合っていたら、夜が明けてしまうからだ。
さすがに仕事終わりの手合わせで、身体は疲れている。さっさと休もうと放置することにした。
「ただの疲れか?」
「だと思いたいですね。違う気がします」
「違ったら、俺の休みが遠退くだろ」
「素直じゃないですね。心配なら心配と言えばいいのに」
異変は確かに身近まで迫っている。可愛い甥を見ながら、二人はそれを実感していた。
――主殿、今のところ変異はありませんでした――
「でも、なにかが起きる」
未来から客がくるほどのことだ。未来には始祖竜などというものが現れている。
普通ではないなにかが起きると知ってしまった。いや、起き始めている。勘でしかないが、飛狛は自分の勘を信じていた。
――はい。けど、先の世には主殿と氷那殿の子孫がいますよ――
歴代の魔法槍士が守ってきたように、子孫が守ってくれる。伝えなくても、志は同じなのだ。
「そうだね。俺は、この時代を守るだけだ。未来は未来の魔法槍士が守る」
――はい。私は未来にもいますし――
相棒でもある魔道生物が言えば、飛狛は笑った。この相棒はなにもかわらない。
この先も、ずっと魔法槍士という家系を見守り続ける。誰よりも頼もしい存在で、大切な家族の一員だ。
――おやすみください。それと――
「わかってる」
相棒の言いたいことは誰よりも理解している。自分の身に起きていることだから。
だから、短く答えるとすぐ横になった。
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