邪教集団2

「所在地とか、わからないのか?」


 わかれ攻めることができるはず。魔法槍士がいて、琅悸がいれば可能ではないのか。


 少なくとも、戦力として目の前の青年は高い。それに黒竜族最強の魔法槍士がいれば、柊稀はやれるのではないかと思ってしまった。


「わからないのです」


「今も探りはいれているが、それらしいものはみつけていない。もしかすると、普段は一般人と変わらないのかもしれないな」


 独自の連絡方法を持ち、集まらないで一般人としている。もしそうなら、拠点のようなものはないことになるのだ。


 また、互いに顔を見せないでやっている場合、メンバー同士把握していない可能性もある。


「末端を捕まえたこともあるが、口が堅いのか、本当に知らないのか。そういったことは一切わからなかった」


 邪教集団はどれぐらいの規模なのか。リーダーは誰なのか。詳細は一切わからない。


 ただ、いい集団でないことだけがわかっている。本人達が目的を平然と告げているからだ。


 先代の巫女のとき、フェンデの巫女を邪教集団が襲う事件があった。


「巫女を?」


 フェンデの巫女は魔法槍士の分家。同じ力を継いでいた為、彼らはそれが目当てだったのだ。


 高齢だった巫女を狙う事件は、その場にいた琅悸と妹によって難を逃れたという。


「妹も強いんだね」


「まぁ、な。うちも特殊な家系だから」


「おかげで先代は助かったのだから、私は感謝ですよ」


 だが、その特殊な家系であることが先代の巫女を救うことになり、結果巫女護衛という肩書きが新たに作られた。


「彼らは始祖竜を手に入れ、その力で世界を支配するのが望みだと先代の巫女に言ったそうです」


 すべてを鵜呑みにするわけではない。支配と言いながら、目的は破壊かもしれない。


 どちらが望みであったとしても、ほっとくわけにはいかないことだけは間違いないこと。


 しかし大事にするわけにもいかず、邪教集団も始祖竜も公にすることはできない。一部の者だけで動くしかなかった。


「時間も遅くなってきた。今夜はここで休むといい」


 神殿内にずっといるため、時間の感覚はない。そのため、柏羅が小さな欠伸をするのを見て、それだけの時間が経ったのだとみんな気付く。


 本来なら神殿の中は、巫女と巫女護衛、傍付き以外は寝泊まりできない。


 三人は巫女の客人だと、傍付きに客室へ案内させた。ここから出さないために。


「どう思う?」


「会ったばかりの私より、わかってるんじゃない?」


 二人きりになると、表情は厳しいものへと変わる。琅悸には気になっていることがあったのだ。


 始祖竜の情報について。巫女を狙ったのは、巫女のある力を求めてのこと。


 その力を手に入れず、どうやって邪教集団は秘密を手にしたのか。考えられるのはひとつしかない。


「私と魔法槍士は無事。残す家系は……」


「考えたくないな。だが、そうなら拠点もわかる」


「そう、ね。それも調べましょう」


 外れてほしい。二人の願いは、それだけであった。




 巫女の客人。その待遇は、とてもいいものだった。案内された部屋も広く、本当にいいのかと思ったほどに。


「朱華お姉ちゃん! 早くです!」


 広いお風呂に、柏羅が一緒に入ろうと誘った。さすがに柊稀は入れないので、朱華が一緒に入ることに。


 嬉しそうに笑う少女を見ながら、朱華は複雑な心境になる。この少女が向ける信頼がとても苦しかった。


「お姉ちゃんの髪、お兄ちゃんと同じできれいです」


「そうかな?」


「はい!」


 自分がきれいと言われても、どこか心は晴れない。これは自分であって自分ではないから。


 いつか柊稀も気付く日が来る。そのとき彼は、どうするのだろう。自分を軽蔑するのだろうか。考えただけでも恐ろしい。


(醜い……)


「お姉ちゃん?」


「ごめん、なんでもない」


 柏羅といることで、間違いなくなにかが変わろうとしていた。それも柊稀を巻き込んでだ。


 朱華は彼が変わっていくのだろうと、なんとなく感じていた。


 日常が壊れていく音を聞きながら、それでもしがみついてきたのは朱華自身である。


 彼女にはそんな自覚があった。少しでも先延ばししようと、無駄な足掻きをしているという自覚が。


「お姉ちゃん、ずっと一緒ですよね」


「もちろん」


 湯に浸かりながら、小さな身体を抱き締める。


 この子は人の感情に敏感だ。おそらく、始祖竜の本能で感じるのだ。


 だからこそ本質を見てくれる。敵に怯えたときも、柊稀になついたときも、本能で感じ取った結果なのだろう。


(柊稀は優しいから、きっと護ってくれる。本人が思うほど弱くはないよ。バカなのは事実みたいだけど)


 少女が彼の元へやってきたのは間違っていない。彼はほっとけない性格だから、最後まで柏羅の面倒を見る。


 けれど、と朱華は思う。自分になついたのは間違いなのだ。なついてはいけない相手だと、自分で思っていた。


 終わりが近づいてくるのを感じながら、それでも最後までこのままでいよう。それが朱華の足掻き。


「お姉ちゃん、背中になにか描いてありますね」


「これは、おまじないかな」


「おまじない?」


 朱華の背中に描かれた模様。複雑な模様で、特殊なものでもある。


 柏羅は不思議そうに触れてみた。


「不思議な力がします」


「柏羅にはわかっちゃうんだね」


 振り向いた彼女があまりにも寂しそうで、柏羅は触れるのをやめた。これにはなにか特別な意味があるのだと、察したのだ。


「これは、私が私であるためのものなんだよ。だからおまじないなの」


「んん?」


「難しかったね。ごめんごめん。早く着替えて、柊稀で遊ぼう!」


「はい!」


 頭を優しく撫でれば、少女は嬉しそうに笑った。二人と遊ぶ時間がなによりも好きだから。


 明日も続くと、少女は疑うこともなく着替えて浴室から出た。





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