第24話 ショタに対するマーキングは念入りにする

 詠唱の話は何となく理解した。かっこよく決めたいときはそれらしく詠唱してみよう。それよりも樹をくり抜いたような家のなかに風呂があることに驚いた。枯れないのだろうか。いや、樹の中にあるとは限らない。風呂とトイレだけは別の小屋があるのかもしれない。


 エルナトの入浴か。これは一人じゃお風呂に入れない設定でいくしかあるまい。薄暗い風呂場。湯煙の先。体を濡らした健康的なエルナトの裸体……おいおい最高かよ。湯船が俺の子種のせいで白濁のにごり湯になっちまうよ。


「たとえばあの樹になってる果実。あれのへたを狙って魔術を撃ってみて。出来れば水、或いは風で撃てるといいね。火は絶対に駄目。森を傷付けるのはお姉さん先生許さないよ」


 お姉さん先生って『美味しいものに美味しいものを足せば最高に美味しいものが出来る理論』の集大成みたいな言葉だな。さらにそこへ美食家な俺はトッピングで「夜の」を付け足してしまう。するとどうだろう「夜のお姉さん先生」となり、更に美味しそうになるではないか。余計な一文字をつけるだけでいかがわしさがムンムンと匂いたっている。これはもう夜が待ち遠しいったらないな。


「もう、また集中が切れてるよー」


 あなたが可愛(シコ)いせいだぜ、夜のお姉さん先生。


「失礼しました。では――」


 魔力を必要以上集めない様に気を付ける。

 集めすぎたところで肩にのっている精霊おっぱいが余剰魔力を食べてくれるので問題はないとおもうが、食べ過ぎて顔の横で破裂をされても寝覚めが悪い。

 慎重に指と目標の射線を合わせ、高水圧の水をイメージする。詠唱に頼らずとも魔術ができる姿を見せて褒めてもらいたいので口は引き結び、ひたすらに想像力を加速させる。


(真っすぐに放たれる高水圧の水……)


 速度と威力は比例するので想像できる限界の速度によって起きる結果を妄想する。

 余計な思考が流れ込む前に、集中できているうちに指先に魔力を流し込む。


「よしッ……出すぞ!」


 パチュン――


 水が放たれ見事にへたに命中する。樹から切り離された果実は引力にひかれ、ぽとりと地面に落下して転がっていく。 


「上出来、上出来。果実に傷もないようだし、狙い通り上手くできたねー」


 エルナトは手放しに俺を褒めて腰をかがめて「ご褒美」とキスをしてくれる。彼女のわかってるところは頬やおでこで濁すのではなく、躊躇なく口にかましてくるところだ。六歳の唇を奪う美女エルフ。いつか彼女が俺と同等の倫理観を獲得したときにどんな反応をするのかが楽しみだ。


 現在の腹具合だとキスよりもエルナトの拾ってくれた果実が食べたいところなのだが。あいや勘違いしてくれるな。けっして君が要らないというわけではない。むしろメインは君でデザートも君で食後酒も君だ。淫乱エルフの後背位風女体盛りにエルフ果汁の生搾りをすすらしてもらうさ。その前の腹ごしらえに君の持つ果実が食べたいのだよ。


「魔術は出す部位で威力や規模の調整がしやすいんだ。指の先に拘ったのは、そのほうが威力を抑えやすいから。あくまでも基本だから慣れてきたら指でも強い魔術を放てると思うよ」


 要は愛棒からもビームを撃てるってことか……?


 テンションがぶち上がる情報だな。

 でも股間から出したメンズビームで仕留めた動物を食べるのは気後れする。そもそも遊びやおふざけで生き物を殺すのはよくない。オケラだってアメンボだって精子だってみんな生きているんだ。無駄な殺生はしたくない。ゴミ箱を妊娠させる勢いで毎晩子種をティッシュに包んできた過去の俺とは違うのだ。今回の人生、射精するときは中出し一択と誓おう。ただし乳射、口射、尻射も女性の中に入れば広義の中出しとする。


「だからね、手のひらなんかで撃とうとすればもっと威力の強い魔術が使えるんだ」


 体全体で使えばどうなるんだろうか。


「なるほど、勉強になりますエルナト先生」

「ユノは立派な魔術回路を持っているのは確かだから、ちゃんと毎日欠かさず鍛錬すればじきに指先に拘らなくてもしっかり調整できるようになると思うよ。なんたって私のユノだからねー」


 愛棒も魔術回路も立派なんですね。


 しかし「私のユノ」か。そう言われると悪い気はしないな。むしろ聞こえなかった振りをしてもう一回聞きたい。独占欲のままに独占されたい欲がこみあげてきた。



 淫乱痴女美エルフから授業を受けながら歩くこと二時間。


 道すがら魔術で果実を獲ったりしていたので腹は大分満たされている。

 もうドラゴンとかいいんじゃないかな。十分学んだし腹も膨れたし足が疲れたよ。もう帰ろう。帰ってもっといいことをしよう。もっと学びたいことがあるんだ。エルナトの胎を膨らませて足腰を疲れさせることがしたい。


 そんな気持ちを裏切るようにエルナトは告げる。


「この辺のはずなんだけど、いつもとは違う何か強い危険を感じるんだよね……」


 何かって何だよ。はっきりしてよ先生。直感で危ないって言うなら、ここに来るまでに直感働かせてよ。俺が危ない日に命中させてもいいのか? そういうことを言ってるんだぞ。


「ん?」


 最初に異変に気付いたのは俺。つられて視線を追い同じ方向をエルナトがみて、間の抜けた声を順に出す。


「あっ」

「あっ」


 森の中では珍しく大きく開けた場所。ゆうに十メートル以上はあろうかという黒い鱗に覆われたドラゴンが翼を畳んで休んでいる。

 

 見た限り、邪悪を絵にかいたような禍々しさを放っており、見ているだけで呼吸が荒くなってくる。

 エルナト先生はこんなものを起き抜けの晩餐代わりに狩らせようと言うのかい。そんな無茶な事を言う口にはお仕置きが必要だ。帰ったらしばらくは俺専用の酸素ボンベになってもらおう。


「え、エルナト、あれが目的のドラゴンなのかい?」


 ゲーム序盤なら樽爆弾を置いて起爆するのがセオリーか。

 ドラゴンの実物を目にすると、とてもではないが爆薬ごときで倒せる気はしない。触れずともわかる硬そうな皮膚と分厚い鱗。俺が魔術を二つ三つ放ったところでどうにもならないだろう。魔術を学んだばかりの六歳児が戦っていい相手じゃない。年齢に限った話ではなく、体格差からして人型の我々が相手をするのが馬鹿げているのだ。


 このクエストのクリア条件は『二人で無事おうちに帰る』だ。剥ぎ取りタイムはエルナトの衣服。こんなところに連れ出したのだから文句は言わせない。黙って俺の報酬になれ。


「逃げようエルナト……」


 震える唇でなんとかそれだけを言って動きのないエルナトの手を掴む。彫刻のような滑らかな手。当たり前だが血の通った確かな熱がある。この手を愛棒に引き寄せて――などと考えている場合ではない。


「なにか……いるのか?」


 黒いドラゴンの伏せている樹々もなく陽の差す広場に何者かの気配を感じた。

 何もない、何者もいないはずなのに、何者かの気配を感じるほどの存在感がそこにはあった。何度も目を凝らしてもそこには黒いドラゴン以外には何もなく、何者もいなかったはずなのに。


 光りが弾ける。アリーシャが俺を救ってくれた時に放ったまばゆく柔らかい光に似ていた。


 反射的に閉じていた瞼を上げると、やはり何かがそこにある。何者かがいる。


 はじめは脚だった。かたどられた瓶にインクを入れるかのように様に姿が現れていく。みるみると姿を現すソレは、三十メートル以上はあろうかという巨大な黄金色のドラゴンであった。


 全身は黄金色に輝き、腹周りだけが真珠の様に白く滑らかな質感をしている。黄金の体の周りに金色の粒が舞っており、散るでも降ってくるでもなく辺りに漂っている。


「すごいっ……」


 神々しくもあるその出で立ちに恐怖とともに熱狂的な興奮を覚える。

 死がもっとも近い状況にあって俺は感動していた。いつまでも見ていたくなり視線がくぎ付けにされる。死すらも喜んで受け入れかねない美しさと風格。竜の造形の美しさ、善し悪しなどは折れにはわからないが、それがこの世で最も美しい造形をしている生物であると本能が訴えている。


 人型の造形で最も美しい個体のエルフを横目にみる。


「あれもドラゴンさんなんだよね……」


 返事をしないエルナト。握った手は離さずに表情をうかがう。


「エルナト? ドラゴンがいるよ?」

「……」


 エルナトは平時と変わらず美しい顔をしていた。その表情はどこか晴れ晴れとしていて幸せそうでもある。


 さすが元観測者。この程度では動揺すらしないんだな。だが何故返事をしてくれないのだ。もしかして返事をしてほしければキスをしろという事か?


 よかろう、望ところだ。口から妊娠させてやる。


「ねぇ、エルナト先生――あっ」




 エルナトは返事をしないのではない。できなかったのだ。澄ました顔で気絶していたから。

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