第9話 魔法師&魔術師 Ⅴ
魔の道を歩む者、グリムと共に動き出したのは声に貫禄があり、歳を食った者故の渋さを感じさせる老骨の仮面だ。今の人間の魔の叡智では当つが不可能であろう魔術の身体強化。
百烈とも言える超速度の連続攻撃。その攻撃に合わせるように、魔術での多重発動をし、上昇をした老骨の仮面の身体能力に追いつく。顔面や胸板に迫ってくる拳を同じく拳で弾く。当たり前だが、ビーフォの時とは次元が違う重みに、冷や汗をかいてしまう。
けれど、拳による攻撃の手は決して止まない。高位な格の魔術の強化に自然体の魔力、意図的な魔力強化で身体能力を上乗せされた殴りの大群を避けられる物は避け、避けられない可能性が高い物は拳で相打ちをさせる。
その攻防が数分続いた時、一気に老骨の仮面の至近距離に近づき、両拳を二つ同時に己の手で掴む。常人からではどうしても不可能な魔力の出力が周囲を支配する。
「なるほど、貴殿が余裕綽々で
「だけど、何で使わないのかな。私達『虚構の扉』と歴史の真実を知っているのならば、私達と同じ魔法や魔術が使えても不思議じゃないよね。いや、それ以上も」
「悪いが、事情があるんだ。そんな魔法や魔術を使ったら領民達も気づく……何より、それよりも勘の鋭い妹達が気づかない筈がない。妹に余計な心配を掛けるお兄ちゃんなんて……長男失格だろう?」
その言葉から突如として魔力の強化出力を高めていくグリム。空気が騒ぎ、風が揺れ、木々達自然が悲鳴をあげる。常に繊細な魔力操作をしなければいけない、緻密な魔術を全身に掛けながらグリムは進んでいく。力を押し合っている老骨の仮面を押しながら。地面に足の跡を残しながら。
力で押せば押すほど、己が掴んでいる目の前の手が『ピシり』、『ピシり』と音が鳴っていく。骨から鳴っているであろう音と共に激痛が襲っているのだろう。
骨に割れ目が入りそうになった時、風の魔法と魔術が放たれる。幾数もの風の槍と一つの緑色の光の砲撃がグリムに向かう。0.1秒にも満たない瞬間、直撃をしたら無傷は避けられないと理解し、地面を今可能な力で蹴る。
ただ地面を蹴っただけでは鳴らない音が鳴った気がするのだが、それは気のせいという事にでもしておこう。意識を地面を蹴った事で発生した音から風の魔法、魔術を放ってきた黒髪の短髪で独特の訛りがある仮面男と緑色のポニーテールをした仮面の女に移す。
風の槍は発動してから次の発動まで約0.4秒と言った所。風の槍は速度と追尾性能が厄介と感じてしまうが、威力は然程無いので気にしなくてよいだろう。問題は砲撃であるが、発動から次の発動までの時間が最小3秒。
「一つだけなら、何とかなるんだけどな。一度発動をした風の砲撃の次の発動までの時間、約3秒の時間稼ぎの為に風の槍を使うと。お前らにとっては最高で、俺にとっては最悪の『こんびねーしょん』だな」
「『こんびねーしょん』が何かは知らんが、我が仲間が褒められるというのは良い気分だな。敵にも賞賛を贈るとは、何とも素晴らしい精神を持ち合わせている男だ。そのような男と戦っていると思うと、誇り高い気持ちになってくる」
リーダー格であると推測が可能な金髪の仮面の男の声が背後から聞こえてきた。驚愕な感情のまま顔を動かせば、掌には闇の魔法を乗せている金髪の仮面男が立っており、その魔法をグリムに与えようとしていた。
繰り広げられたグリムの脳内空間にて、防御魔法や防御魔術を現時点から発動する事は不可能であると判断をし、直撃をするであろう場所を中心的に集め、防ぐ。しかし、魔力で硬化したとしても、瞬間で集めた魔力、全ての攻撃を殺し切れる道理など存在せず、むしろ…。
「けほっ、けほっ。久しぶりに口から血を噴き出したな。驚いたよ、此処までの威力とは。流石、此の強者ばかりの中でリーダーをしているだけはある」
「我的には其方の方が驚きなのだがな。何故我の攻撃であれ程しか喰らわん」
「そりゃあ咄嗟に魔力防御をしたからね。とは言え、全部を防ぎきる事ができなかったんだけど、な!」
金髪仮面男の魔法で少々吹き飛んだグリムに襲いかかってきたのは、自ずが組織、『虚構の扉』と真実の歴史を知っている事に疑問を持った紫色の髪をした少女である。己よりも遥かに高められた物体生成魔法。創造された物を見るだけで途轍もない努力をしてきたのだと理解ができる。
持っていた武器は「極東で使われてるよ」とミカとクミが教えてくれた薙刀__何故この国から遠く離れた極東を知っているのかは疑問であるが__だった。妹達から極東の武器の種類を纏められた本を渡され、読んだ時にも感じた事だが、斬撃を使用する武器にしては長い。
素の状態でも射程が長いのに、魔法による追加の斬撃が放たれるのは鬼畜かと言いたい所である。たたでさえ、他の仮面達の相手もしなければならないのに。
其のような弱音を心の中で吐いていれば、目の前に風の槍が飛んでくる。紫髪仮面女が加わったおかげで風の槍の厄介さは高まってしまった。更に注意をしなければいけない事が増えたことによって、表にも感情が出てしまった。
「ふむ、貴殿は嫌がっているな。ククク、久方ぶりに感じた。歓喜という感情を。貴殿のような強き者から警戒をしなければならない者と見られているのは心地が良い」
「油断してたら死ぬのだから当たり前だろ?というかさ、気になってたんだが、何で高位の魔法や魔術を使わないんだ?」
「……」
答えは分かっている。理解など当にしている。先程グリムが「妹達に心配は掛けれない」と言った事で撃ち放って来ないのだ。
心の中で感謝を告げながら打撃と打撃が衝突させている。当たる度に魔力の火花が辺りに散り、打撃と打撃の衝突では鳴っては無らない音が周囲に響く。
戦闘を初めて丁度三時間程経った頃だろうか、仮面の者達全員が攻撃の手を止めた。
「なるほど、今の目的は達成したか」
「貴殿は何処まで知っているのか。何故其処まで見通せるのだ」
「強いて言うなら大切な人が居るから、かな」
「……貴殿はボスと同じような事を言うのだな」
老骨の仮面がそう言葉を口にした後、長距離の転移魔法でこの地から去った。
「少し、探ってみる必要が出てきたな」
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