第8話 魔法師&魔術師 Ⅳ
グリムは、『どーぴんぐ』をした事によって強化された力を増えた八本の腕によって戦いにくさを体感する事となる。
増えた力だけならば、然程厄介では無い。しかし、元々存在していた二本の腕に、六本の腕が追加されては別だ。手数が大幅に増加された事で意識がその分分散され、中々に厄介な事になってしまっている。
「どうした!貴様の方が強いのではないのか!?私よりも、遥かに。だとしたらこのザマは何だと言うのだ!?」
「煩い、喚くな。借り物の力で強くなって調子に乗ってんじゃねえよ」
「借り物の力?それがどうしたと言うのだ。己の力に幾ら誇りを持っていようとも、負ければそれは意味を為さない!勝者は全てを得り、敗者は全てを失うのだ」
「だから、圧倒的な力を得る選択をしたのか?人間としての自分から逃げてまで」
「逃げる、だと?」
異形へと変化をしたビーフォはグリムの言葉に不思議そうにしているのだが、グリムが感じた事をそのまま言葉にしたのみだ。人間である事に誇りを持っているグリムからしてみれば、異形に変化する事は逃げだ。
「自分の力では、人間のままでは上へと到達できません」と言っている様な物。ビーフォは勝手に限界を決め、嘆き、自分では無い自分に手を出した。
「死ねば全てを失うのは同意だ。だが、そうは成りたくないから借り物の力に頼るのは納得ができない。それが魔術師や魔法師なら尚更。アンタ、一体何を見てきたんだ。戦の中で「負けられない」と開花をしてきた者を見た事が無いのか?」
「!?」
迫ってくる幾数もの腕を裏甲や表の甲で弾き、頬に前蹴りの打撃を叩き込む。ビーフォは受けた脚の威力に自然と後退をしているが、すぐさま立て直してグリムに反撃を与えようとし、顔を上げる。
残念ながら、グリムはビーフォの瞳の先には居ない。後退をした瞬間、顔が地面に向けられた瞬間の間に短距離移動の魔法を発動し、ビーフォの背後に居るのだから。
「何故だ、何故なのだ!?私は先程よりも遥かに強くなった。それなのに……借り物の力さえ無いお前が、何故私よりも強いのだ!」
「慣れている人間の姿から突如異形の姿になったんだからな。魔法師や魔術師なら誰でも知っている常識だぞ?」
「黙れ、黙れ黙れ黙れ!貴様のような
「そうか、よ!」
背後に存在しているグリムに攻撃をとどかせる為、振り向いて多数の攻撃を振るってくるビーフォであるが、大振りで荒い腕遣いの隙を掻い潜り、腹に蹴り上げを与える。襲いかかっているであろう激痛。怯んでいる姿。
痛みで苦しんでいるのだろうが、だからと言って配慮する慈悲など持ち合わせてはいない。上空へと吹き飛んだビーフォに向かってグリムは助走をつけ、地面から空中に跳び上がる。
跳び上がったグリムは既に吹き飛ばされたビーフォよりも高位置におり、魔法を今から構築し、放つ頃には直撃をさせれる十分の距離であった。
「さあ、特と喰らえよ。『
「ちっ、少し『みす』をしちまったか。まあ良い、結構痛手を喰らわせられただろ。……おいおい、マジで言ってんのかよ」
黄金の丸薬が仮面の額に詰められている者達が五人。全員が全員、ビーフォよりも実力者である事は間違いないだろう。全力を出したグリムと仮面の者、何方が強いかと言われればグリムではあるのだが、五人という複数人相手は非常に不味い。
もしグリムの戦闘能力が三だとして、仮面達の実力が一だとしよう。三−(一+一+一+一+一)の方程式で負けるのは何方か、グリムである。このような百%はないだろうが、負ける可能性が勝つ可能性よりも高いのは事実。
(キッツいなあ。何が一番キツイって量だよ。ビーフォが立ち上がってきたら六対一になってしまう。此処で全員を倒したとして、俺も重症になる、もしくは相打ちになって命絶える可能性が高い。ミカとクミの事は諦めて、ビーフォを
連れ帰ってくれないかな)
そんな事を心の中で祈っているのだが、期待するだけ無駄であろう。闘志と敵意を全開にしているし、何時でも戦闘開始が可能なよう、構えをとっている。
「殺している訳でも無いので、其処まで怒らんでも…」と思ってしまうが、グリムにとっての妹達のような者なのだろう。
「まあ、お前らが襲いかかる理由には納得をしている。でも、理解できるかと言われたら別だ。(今夜だけで、家族では無い実力者と対面するの七回目だからな。一回目は関係ないとして、他の六回全部此奴等なのどうなっとんねん)」
「……知っているのか。我らの目的を。悲願を。『
さて、此処で仮面の男に言われた大将のグリムの内心を見てみよう。其の中身は困惑と驚愕だらけである。まあ、当たり前と言われれば、当たり前かもしれない。もう少し戦闘に来る人数を少なくしろ、という念で放ったつもりの言葉が、仮面の男の口からは別の意味に早変わりだ。
これが妹二人の言う『いたい』という事なのだろう。話している事実を捻じ曲げるとは…聞いている此方が恥ずかしくなってしまう。
「しかし、驚きましたね。私達以外に真実の歴史を知っているなんて。いえ、それよりも『虚構の扉』の存在を知っている方が驚きです」
「お前ら、派手に動き過ぎなんだよ」
「派手、ですか」
「あぁ。派手だ。隠せ通せていると勘違いしているようだが、月光を仲間にしたからと言って動き過ぎている。目的の為なら、一時の感情に支配される事は無く、未来に達成できるであろうと希望を持って忍耐を極める。それが俺の思う悲願する者だ」
そんなグリムの言葉を聞いた仮面達は、画面越しでも分かるくらいに驚愕に染まっており、次の瞬間には爽やかな感情を体全体に浮かべていた。
適当に口にした言葉で響いている様子なのが謎である。
「貴殿の忠告、心の中心に添えておこう。最近の儂等は悲願者が何たる者か忘れておった。初心に帰らせてもらった事、誠に礼を言う」
「でも、ごめん。ウチ達は貴方と…」
「気にしなくて良い。お互いに戦う理由があり、引かない理由もある。俺は気にしない。だから、お前達も気にしなくて良い」
「優しいお人やなあ。此処まで優しく接せられたのは久しぶりや。ワイ達は日陰を生きた者やさかい、光を生きとるアンタに肯定されるのは嬉しいもんがあるな」
「そうか」
グリムの心は謎に支配されたまま、体が動き出す。
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