シャム

『   』



 誰かがシャム、と言った気がした。シャムという単語が何だったかと考えたとき、自分でつけた自分の名前だと思い出す。

 シャムにはもともと名前がない。人形師は名前をつけないし名前をつけるのは本来買い取った人間だ。シャムを買った人間は軍を指揮する男で人形ごとに名前をつけるなどという事はしなかった。いかに戦いを有利に終わらせるか、人形を有効活用するかを優先させひたすら戦わせることに集中していた。


 町は燃えマネキンは敵からも味方からも徹底的に破壊され、人間たちが街を捨てて逃げ、残ったのは自分だけ。誰にも呼ばれることがないとわかっていても自分に名前をつけた。

人間のようで人間ではない、命のようで命ではない。あらゆるものの模造品。


shamニセモノ


誰にも呼ばれないが、本当は。


――本当は誰かに名前を呼んで欲しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る