マネキンの名前は
町に入りマリーの後を追う。すると広い場所に出て、地面に何かあるのが見えた。地面にうつ伏せで倒れている、近寄ってみればそれはマリオネットではない。
「なんだあ? 人間じゃねえか!」
自分で言った言葉にやるせなさが唸る。ここに到着するまでに半月以上、もう生きてはいない。マリオネットが急いでいた理由は自分の主人の危機を救って欲しかったからなのかと後悔した。
それでもマリオネットは駆け寄るとペタペタとその人を触る。その手つきは優しくその人の周りをぐるぐる回りながらあちこち触っていた。死を理解できないのだろうかと思ったが、近寄って倒れている者の手を見て気づいた。よく見なければ気づかない、人にはない不規則な図形のような継ぎ目の数々。腐臭もしないこの者は。
「人間じゃない……? まさか」
壊さないようにそっと仰向けにして男は目を見開く。
「マネキンか」
人によく似た人形。戦争で使われた人形の最終形態。マリオネットと違い念入りに破壊されたと聞いたことがある。旅をしていてマリオネットを見かけることはあったがマネキンは一度も姿を見たことがなかった。まさかこんなところにいるとは。
「おいおい、流石にこいつは直せないぞ、お前とは体の作りが全然違う」
男の言葉にマリーはじっと男を見る。
「無理なもんは無理だよ、俺が触ったらバラバラになるぞ。それにもう壊れてるだろそいつは」
マネキンはピクリとも動かない。目も閉じており先ほどマリーが何度も体を叩いたが何も反応が返ってこなかった。マリーは日にちを数えていないがシャムの元を旅立って二か月以上。シャムが持ちこたえられると計算した期限をとっくに超えている。
マリーは仰向けになったシャムの頭の近くに座るとシャムの顔を覗き込んだ。両手でシャムの顔を包む。
男はそれ以上何も語ることなくその行動を見守った。あの人形の気が済んだらせめてマネキンを弔ってやろうと考えていた。墓を作ればマリオネットも理解するだろうかと思ったのだ。
マリーの手がシャムの顔をゆっくりと撫でる。膝立ちとなり頭を地面に向かって下げるその姿は、まるで神に祈りを捧げているかのように見えた。
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