マリーの瞳に映る世界
aqri
出会い
大量に打ち捨てられた人形たち。積み上げられ雨風に晒されて朽ちていく。
かつて兵の代わりに戦争で戦ったマリオネットたち。命令に従い壊れるまで戦い続けた。使われなくなった「彼ら」はごみとして捨てられている。
青年が近づいて一体のマリオネットの顔を覗き込んだ。ガラス玉でできた目が僅かに動き男を見る。
「まだ動くのか、さすがはマリオネットだな」
マリオネットはしゃべらない。声を出す作りになっていない。人間の命令に絶対に従い言われたことだけを遂行する。
青年はマリオネット両手で抱えて持ち上げた。大きさは十歳にも満たない幼い子供位。この大きさは燃え広がるものや爆発物を抱え敵の陣地に突っ込んでいく一回限りの使い捨てのマリオネットだ。使われずに捨てられたのだろう。雨風にさらされてあちこち朽ちてはいるがどこか壊れていると言う様子は無い。
青年は背負っていたカバンからいくつかの道具を取り出すとマリオネットの体の手入れを始めた。関節部分の継ぎ目を一度外してヤスリをかけてから再び取り付ける。
「これで動きやすくなっただろ」
青年の言葉にマリオネットは無反応だ。青年は一瞬考えてなるほど、とマリオネットを見つめた。
「ああそうか、命令がないと動かないのか。立ち上がって歩け」
青年の言葉に今度こそマリオネットは動き始める。ぎこちない動きでゆっくり立ち上がると歩き始めたまにジャンプをし青年の前に戻ってきた。
「まだ動くマリオネットがいると思ってなかった。そうだな、お前はこのままここにいても壊れるのを待つだけだし、僕と一緒に旅に出よう」
マリオネットはしゃべれないので青年の言葉に何を考えたのかわからない。ただ言われたことを指示と捉えれば命令だと認識すればついてくるはずだ。
「戦争が終わってだいぶ経つ。お前たちはただ戦うためだけに作り出されて外の景色は何も知らないだろう。そのガラスの目玉に世界はどんなふうに映るのかな」
そう言って歩き出す青年の後をマリオネットはついてくる、まるで親の後をついてくる子供のように。
青年とマリオネットの世界を見る旅が始まった。
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