世良春香の恋(仮)

かい

失恋は始まり?


「私と付き合ってくださいっ!!」

 その言葉が私の頭の中で反響する。

 違う。

 言葉だけでなく、告白のシーンが頭の中で繰り返し再生されている。

 ハル君……上城春人。

 私の幼馴染で大切な人。

 そんな彼が、目の前で告白された事実は私に大きな衝撃を与えていた。

 ハル君に告白した宮原綾さんは同じクラスで、私なんかと違って可愛らしくて、クラスの人気者だ。

 ハル君が告白されてから何日が経ったんだっけ?

 あれ以降の記憶がぼんやりとしていて、毎日胸が苦しい。


 最近は白昼夢を見ているようで、記憶が飛んでしまうことが多い。

 今日も気がついたら学園の屋上に来ている。

 多分屋上にいるってことは、今はお昼休みなんだと思うけど……。

 視線を自分の隣に向けると、お母さんが作ってくれたお弁当がある。

 食欲がないままに包みを広げて、膝の上にお弁当箱を持ってくる。


「…………」

 昨日のお弁当はどうしたんだっけ?

 昨日食べたかどうか思い出せない。


「おい! 今日も食わないのか?」

 お弁当を食べようか悩んでいると、後ろから声をかけられた?


「よっ!」

 突然ベンチの背後から身を乗り出して、私のお弁当をのぞき込む人が現れた。


「んだ~まずいから悩んでるのかと思ったら、旨そうな弁当じゃないか」

 身を乗り出してきた男の人は、何とも馴れ馴れしく話しかけて来るが、その雰囲気に警戒してしまう。


「おまえさ、ここ最近ずっときてボーっとしてるけどさ、いわゆるボッチか?」

 ずけずけとものを言う人だと思ったけれど、ハル君以外にまともに友達と呼べるような人がいなかった私は、ボッチなのだと今更気がついた。


 「まあ、本人に聞くってのはさすがになかったな。 悪かったごめん」

 男の人はそう言うと、私の隣に腰掛けた。

 

「リボンの色からして二年か、だったら屋上の噂とか聞いたことないのか? 正直屋上に来るのは俺かおまえくらいなんだけど?」

「噂?」

「お!? やっと喋ってくれたな。 そう噂、その感じだと聞いたことないって感じか」

 思わずつぶやいてしまった言葉に気をよくしたのか、男の人は何ともうれしそうにしている。

 リボンの色を指摘された意趣返しではないが、彼の学年を確認しようとしたが……。

 ネクタイをしていなかった……。


「まあ、噂っていうよりは事実なんだけどな。 屋上にはヤバい先輩がいつもいるから近づくなってやつ。 知らない?」

「知りません。 あまりそういうの……詳しくないので……」

「そうじゃないと屋上になんて来ないよな、まあ、そのやばい先輩ってのが俺になる訳なんだけどさ、どうよ?」

「はい?」

 正直彼が何を言っているのか全く理解が出来なかった。


「いやだから、俺はその怖い先輩なのよって話」

「先輩が先輩なのはわかりましたけど……私あまり人と話したい気分じゃないんです……」

 なんで先輩と話してるのかわからなくて、気分も重いし疲れる。


「ん~ああ~。 なんていうかさっ! 屋上は俺のいうなれば城だったわけなのよ」

 先輩はベンチから立ち上がって私の前に立っている。


「誰もやってこない聖域だったのよ。 そこに最近ふらふら~っと誰か来たと思ったら、ものすっごいどんよりオーラで何するでもなくベンチに座ってるわけよ、気にするなって方が無理だろ! 気になるっての!!」

「それって私のことですか?」

「他に誰がいるってんだよっ!」

 つまるところ、邪魔な私が来たことが気に入らないってことなのかな?


「すいません。 別にここじゃないといけない訳じゃないので立ち去ります。」

 私はお弁当を片付けて帰ろうとする。


「いやいや違う違う。 誰も出て行けって言ってるんじゃなくて、ほら……」

 ほらと言ってから何も言わない先輩。

 私が何か言わないといけないのだろうか?


「あ~そうだ! 弁当だ! お前それ食わないんだったら俺が食ってやるよ! その代わりなんか悩んでるなら話を聞いてやろう」

「…………」

 どうにも先輩の言ってることはよくわからない。

 ただ、お弁当はお母さんが作ってくれてるものだし、残したりはしたくないけど私は今は食欲がない。


「お弁当食べたいんですか?」

「お……おう食べたいかもしれない」

「どうぞ」

 私はお弁当箱を先輩に差し出す。


「おおう。 いただきます」

 そう言うと先輩はベンチに腰を下ろすと、どこからか取り出した割りばしでお弁当を食べ始めた。


「おお~うまいなこれ。 お前が作ってるのか?」

「いえ。 お母さんが作ってくれてます」

「ふ~ん。 なら残さず食わないとな」

 それだけ言うと、私なんかとは比べ物にならない速度で、お弁当を食べてしまった。


「ごちそうさまでしたっっと。 お母さんにうまかったって、言っといてって……そうなるとおかしな感じになるか」

 お弁当箱を私に返しながら先輩はおかしそうに笑っている。


「さて。 それじゃあ話を聞きましょうか」

 キーンコーンカーンコーン。

 予鈴だ、昼休みがもう終わる。


「それじゃあ先輩失礼します」

 私は荷物を持って立ち上がった。


「ちょいまち。 名前は? それくらい言う時間はあるだろ?」

「二年A組世良春香です」

「俺は相馬蓮司三年なんだけど、ダブってるから四年でもある」

 私は一礼をして屋上の入り口に向かう。


「世良~」

 大きな声で呼ばれ振り返る。


「これやるよ」

 相馬先輩が何かを投げて来た。


「え!? ちょ……」

 私は突然のことで慌ててしまい、飛んできたものを受け損ねてしまった。


「あははは。 どんまいどんまい。 弁当貰っちまったからな、それくらいならいけるだろ」

 落としてしまったものを拾うと、ゼリー飲料だった。

 あらためて一礼して私は屋上を後にした。

 最後にちらりと右手を挙げている相馬先輩の姿が見えた。


 なんだか少し……。

 胸が軽くなったような気がした。

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