【SIDE:B②】投稿日が被るとは……。
「出だしにこのアクセス数とブクマ数と評価数なら、次の朝の日間のランク入りは固いな」
腕を組み、俺は満足した。
投稿時間も、その前日などの他の作者の投稿数や傾向、ポイント、それらも加味しての総合判断の上での投稿、吟味した内容、押さえた読者需要。今回も、俺の作品は、ランキングに入るという意味では完璧だろうと思う。
俺はやるからには徹底的にやりたいので、自分の行いに満足している。
「……」
ただ、非常に空しい。
怖さんの連載の続きの更新が、もう二週間もない。二週間以上更新が無い場合、怖さんは高確率でその作品を更新停止とし、別の作品を書き始める。俺は好きだからそうであっても読みはじめるが、この完結させない連載の多さ――俗に言うエタ作品数というのは、明らかに読者離れを引き起こす。しかし怖さんは何も気にした様子が無い。さらに彼のまちまちの投稿時間……一気に投稿があるときは頻度が高すぎるほどであるし、全くない時は本当にないのだが、午前二時から四時の間がダントツで多く、名前が怖だけに丑三つ時を狙っているのか、夜勤なのかと俺は当初思ったが、SNSを見る限り、単純に生活がひっくり返っているだけの様子だった。
「いやいい。何が次に投稿されたって読めればいい。今後いつかあの作品の続きが、読めるならばな」
俺は肩を落とした。
俺の完璧な作品は、我ながら完璧だが、面白いわけではない。面白いと思ってくれる方がいるのは分かる。俺は面白いと思っもらうために書いたのだから。だが、それがイコール俺にとって面白いわけではない。俺の作品は完璧だが、俺にとっては、やはり怖さんの作品よりは全く面白くない。人気は怖さんの作品は、あったりなかったりするのだが、その二週間前の作品は、客観的に見て、それなりの評価数だ。ランキングでも日間ランキングで一位だった。が……怖さんはランキングが高評価であろうが低評価であろうが、急に更新が途絶える。俺ならば順調な滑り出しならば長さを調整するし、出だしで危険な兆候を感じ取れば、なるべく早くまとめて終わる準備に入るのだが、怖さんにはそのような概念はなさそうだ。
「ん?」
SNSで続々と届き始めた読了報告や感想を見ていた時だった。
怖さんが投稿していた。
『新作短編を投稿しました。おやすみなさい』
待ってた、待っていた! というのが、俺の一番の心境だったが……同時に、非常に嫌な、不安な思いに駆られた。確かに怖さんは人気が出ない作品も多いが、爆発的に伸びる作品の数も非常に多い。今、投稿されたものが、人気傾向の内容だったならば……明日の朝の一位、勝者は俺ではなく怖さんの可能性がある。
読みたい気持ちの方が強すぎたので、俺は嫌な予感に襲われ冷や汗を浮かべながらも、結局それを読んだ。
「まずい……これは絶対一位は怖さんだ……」
速攻で読み終わり、俺は椅子に背中を預けた。
怖さんにしては、最近では珍しい王道世界観の人気要素のある主人公のお話で、その中に怖さんにしか書けない、まさに天才的な要素が詰まっていた。俺の計算ずくの、安定した面白さとは違う、衝撃的な面白さに、俺は心を貫かれた。
肩を落とすが、仕方が無い。
SNSを見れば、感想数は俺宛の方が多いが、俺がチェックを欠かさないヨミセンである人々の辛口も含まれる多数の読了報告の反応がもう既に、怖さんの作品ラッシュである。
正直、鬱屈とした気持ちになる。
怖さんに近づきたくて、この投稿サイトでも投稿を始めたわけではあるが、負けるのは悔しいし、才能の差を感じさせられると非常に屈辱を感じるし、嫉妬せずにはいられない。だが、越えられない。だから、好きなんだ。
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