【SIDE:A②】もしやご近所さんか……?
目を覚ました俺は、カップラーメンを食べてから、猫のトイレの掃除をした。
それからシャワーを浴び、PCを起動する。
本日も最初にやる事は、小説原稿サイトにログインして、楪さんの新作の投稿がないか確認することだ。残念ながら無かった。続いてSNSを確認すると、通知がきていた。
「あ」
楪さんから話しかけられていた。
『フォロバありがとうございます!』
から始まる挨拶だった。俺はハートマークで反応しておいた。
楪さんの作品は大好きだが、別に俺はご本人を深く知りたいわけではないし、というより、神作者様と話すなんて緊張するから、適度な距離を保とうと考えている。
さて、それはそうと、そろそろ自作も書かなければ。
俺は勝手気ままに書いているから、未完結の連載作品の数も多い。今日はどれを更新しようかなと眺める。だが思いつかなかったので、少しの間、SNSのタイムラインを見ることにした。
「あ」
するととても可愛い猫画像が流れてきた。
見れば楪さんの投稿したもので、彼もまた猫を飼っているのだという。
猫好きと言うだけで親近感がわいた。思わず俺はハートマークで反応した。
「えっと、今日は……短編でも書くか」
なお俺は、投稿していない場合であっても、SNSと生理的生活時間を除けば、大抵読むか書くかしている。ジャンルも様々だ。
こうして半日ほどかけて、俺は短編を一つ書き上げた。
「投稿しよかなぁ、どーしよかなぁ」
そう唸りながら、再びSNSを開く。すると楪さんがまたSNSに投稿していた。結構話す人なんだなぁ。
「なになに……? 『次の更新は、夜の九時です』かぁ……ああああ! 新作! 楽しみ。アラームかけとかないと!」
俺は目を輝かせた。フォローできて本当に良かった。俺は全力で反応し、拡散した。
楽しみすぎる。
読めるし、俺のは別に投稿しなくてもいいか、うん。でも折角書いたしなぁ。
そう結論づけ、俺は小説ファイルを保存して閉じた。
ちなみに変な話、嫉妬のようなものは……ない。俺は、小説は勝ち負けだとは思わない。
というのもあるが、俺は自分の作品が大好きなので、『俺にとって一番最高の作品は、俺にしか書けない』という考えがあるから、俺に対しては誰も勝てないわけであり、俺は常に勝者だから、勝敗は無意味なんだろうと思う。
ただ、ランキング上位であったり、最近は投稿サイトから商業書籍化する作品も多くて、そういうのが羨ましくないかという話がSNSでも時折話題となるのだが……ランキングはあまり見ないので正直羨ましいという感覚はなく、商業化した作品は欲しいものは購入できるので……即ち、作者の意思で、クリックやタップ一つで削除可能な作品を、俺の意思で手元に残しておけるようになるので、単純にありがたいだけなので、これに嫉妬もない。寧ろあの作品も書籍化しないかなぁとかと祈ることの方が多い。
逆に変な話であるが、自分の作品の書籍化は……削除できなくなる(しても、誰かの手元にはある)という意味で、あまり想像したくない。まず俺の人気具合では、商業書籍化などすることはないだろうが、仮にしたとなっても困惑する姿しか思い浮かばない。
「ん?」
その時、楪さんが、新しい投稿をした。
そこには、見た事がある創作料理店の外のたてかけ看板――メニューが映っていた。
「あ! これ、駅前のご飯屋さんのじゃ……? チェーン店じゃないし……え? ってことは、楪さんって俺のかなり近所の人なのか?」
なんでも今日の昼食をそこで食べたようだ。
楪さんは、社会人の様子だ。
「……」
これは危険だ。うっかり近所だと判明して、オフで『ご飯でも』みたいな流れになったら困る。半分くらい引きこもりの俺は、人に会えるような状態にはない。遊びに行ける私服なんてもう暫く買っていない。いや……そんな誘いは来ないかもしれないし、杞憂かもしれないが。俺は、その写真には反応しないことにした。
「午後は何書こうかなぁ」
俺は腕を組み、そろそろ連載の続きを書こうかなと考えて、後続のプロットを整理したり、プロットなんて無い作品は、勢いで、二話ほど続きを書いて保存するなどした。
実は俺は、停止中の連載作品は色々あるのだが、その続きは投稿していないだけで、パソコンの中には結構あったりする。書いて満足して、後で投稿しようと思って、その後でが……来ない。逆に一刻も早く読んで欲しくて、何も考えずに投稿することも多いが。
だから投稿時間なんてまちまちだ。完全に適当である。
投稿サイトは、『一人で良いから他の人に読んで欲しい』『それと自分で読み返しやすい』の二点で投稿しているので、どの時間に投稿しても多分検索エンジンがきているだけかもしれないが、アクセスは多少はあるので、俺にとっては問題ないと言える。
こうして夜が訪れたので、俺はまたカップラーメンを食べ、猫に餌をあげてから、午後の九時を待った。午前中に書いた短編は、読み終わって気が向いたら投稿しよう。
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