第4話 龍族の子だというのが謎過ぎる
俺が幼いころモブ爺ちゃんから聞いた話ではこうだ。
母さんは俺を産んでから産後の肥立ちが悪くて、亡くなってしまった。
母さんが亡くなってすぐに、父さんは神主だけでは食っていけないと出稼ぎに行ったまま行方不明になったと聞いている。
だから俺は母さんの顔も父さんの顔も見たことがない。
正確に言えば、写真でしか見たことがない。
だから、親代わりとなって俺をここまで育ててくれたのは、モブ爺ちゃんとリリ婆ちゃんだ。
「紫音、お前は髪の毛の色でいじめられたことはないか?」
俺は茶色の髪をしている。
だが、うちの家系はリリ婆ちゃんがブロンドだし写真の母もブロンドだったから、何も不思議に思わなかった。
それに、集落のみんなもこの神社の家系はブロンドが多いから、茶色い髪の毛と言う理由でいじめられたこともなかった。
今は昔と違って、茶髪かっこいいとか言われてかえってうらやましがられている。
「ないよ、そんなの。いじめられる前に俺ボコってるし」
「こら!」
「冗談だよ」
「紫音、人に暴力をふるうのは絶対にいけない」
モブ爺ちゃんが厳しい顔をして、俺の目を見つめて言った。
「はい。・・・あのぅ一応聞くけど、父さんは強い人なの?」
「召喚の儀が成功したら会える。そしたらわかる」
「成功したらって、成功しない場合もあるの?」
「うーーん、・・・・どうかな。」
モブ爺ちゃんが失敗することってあるのか? ・・・・・あるな、普通に。
相変わらずカエルはうるさいほど鳴いている。
クワックワックワッ・・・・クワックワックワッ・・・・・
「お前の父さんは神職で、禰宜(ねぎ)だった。宮司の下の階級だ。それなりに強いと爺ちゃんは思っている」
「でも、爺ちゃんの方が強いんでしょ」
「爺ちゃんは、紫音たちみたいに異世界の血が入っていないから、毎日鍛錬し続けてやっとこのレベルなんだよ」
薄々そうかもしれないと想像していたが、俺の髪の毛や目の色が違うのは、やはり異世界人の血筋だったのか。
確か、モブ爺ちゃんは今『紫音たち』と言った。
俺と誰が異世界人の血筋なのか家系図でも書いてくれないとわからなないなぁ。
「だけど、婆ちゃんはバリバリ元気で世界旅行に行っちゃったじゃん。爺ちゃんだってまだまだ若いよ」
「リリアンは異世界から来た人だから、体力が無限だし老化もしない。お前の父さんも異世界人の血筋だから体力が無限なんだよ」
リリアンとは、婆ちゃんの名前だ。
体力が無限で老化もしないって・・・・確かにリリ婆ちゃんは今どきの若い娘のように元気いっぱいで、世界旅行に出てしまった。
そして、リリ婆ちゃんはブロンドで青い目をしているから、外国人とよく間違われるけど、やはり異世界人だったんだ。
ということは、父さんも異世界の血筋だということだ。
頭の中で俺は家系図を描く。
じゃあ、俺はその息子だから強いはずなんだが、おかしいな。
俺の母さんも写真で見る限りは、リリ婆ちゃんと同じ異世界人に見えるけど。
「じゃあ、俺の母さんも異世界人なの?」
「まあ、そういう理解で問題はない」
モブ爺ちゃんの言葉の端切れが悪い。怪しい。
俺は考えた。
リリ婆ちゃんは異世界人。父さんにも異世界人の血が流れている。
母さんもおそらく異世界人。俺にも異世界人の血が流れている。
ということは、この家で普通の人間はモブ爺ちゃんだけなのか。
なるほど、だからモブっていうのか。
かわいそうだなぁ、爺ちゃんがモブだったなんて。
そんな考えを脳内で巡らせていると、モブ爺ちゃんが言った。
「紫音、お前はな、龍族の子なんだよ」
「へ?」
「お前は龍族の子なんだ」
「俺は誰の子だって? 誰の子だかよくわからない」
「龍族の子だ」
リーン リーン リーン・・・・リーン リーン リーン・・・・
草むらの鈴虫がさっきよりも近くで鳴いている。
「驚かせてしまったな」
いや、鈴虫も驚いていると思うが・・・
異世界人だって人間でしょ。
モブ爺ちゃんは人間だし、リリ婆ちゃんは異世界の人間ということじゃないか。
ということは、父さんも人間ということになる。
あと残ったのは母さんか・・・母さんが龍族なのか。
「それってやばいの?」
「お前はまだ龍族の力をコントロールできない。だから、爺ちゃんと父さんはお前の力を封印した。
お前が龍族の力をコントロールできる器になるまでは封印することにしたのだ。早く修行して正しく使えるようになれ」
俺に術を使う能力が無いのは封印されているからだという。
つまり、俺はやっかいな力を持って生まれてきてしまったらしい。
それで、やっかいな俺を捨てて父さんは異世界に逃げて行ったんだな。
十六年間も。
心の中に怒りとも悲しみとも言えないモノがじわじわと湧いてきて、俺は膝の上で握りこぶしをぎゅっと握った。
「隙あり! プリンは爺ちゃんのものだ!」
しまった! お盆に置いてあったプリンを奪い取られた。
「ずるい! こんな重い話をしておいて隙ありなんて、大人げないなあ!」
「大人げないで結構。爺ちゃんも婆ちゃんに負けず劣らず元気でいたいからな。
紫音、どんな時でも隙は見せるな。早く封印を解けるくらい強い器になれ」
「狡猾な爺ちゃんに育てられるのは、精神衛生上よくないと思う」
「バカたれ! 狡猾ではない。鍛えているのだ、ありがたいと思え」
「はい、ありがとうございます!」
俺は正座して頭を下げた。
俺たちの大声で鈴虫はぴたっと鳴くのを止めた。
プリンを奪われてお礼を言う孫がかわいそうだとは、モブ爺ちゃんはこれっぽっちも思っていない。
モブ爺ちゃんは、俺にとって祖父であり師匠でもある。
そして、満月は高く昇り、ゆっくりと流れてきた雲に隠れた。
思いもよらない秘密を知らされた夜だ。
しかも、古文書よりも俺の出生の秘密のほうが重いという事実。
事実を知らない方が幸せだったかもしれない。
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