異世界オークションへようこそ〜優秀なオークションスタッフたちは数々の難題と災難に立ち向かう〜
のりのりの
1章 ガベルとサウンドブロック
1-1 ガベル
美しい鐘が鳴り終わると同時に、若手オークショニアの声が会場ホール内に響き渡る。
「皆様……大変長らくお待たせしました! 本日、最初の品でございます!」
シックな内装のオークション会場に、押し殺したざわめきが広がる。
(やれやれ、やっとオークションが始まるぜ……)
(今日はいつもよりも開始時間が遅かったね。大丈夫かなぁ)
オークションスタッフのガベルとサウンドブロックは、身を寄せ合ってコソコソと会話を交わす。
大きな声で会話をして、まだぺーぺーな若手オークショニアの邪魔をするわけにはいかない。
ダン! ダン!
木槌が振り降ろされ、打撃板が鈍い音をだす。
ダン!
そして、最後にもう一度、木槌の音が鳴り響いた。
その大きな音に導かれ、参加者全員の視線が壇上に集まる。
仮面で顔を隠した多くの貴人が、演台にいる若いオークショニア――競売人――に探るような眼差しを向ける。
押し殺したざわめきのなか「カラカラカラ……」と出品物を載せたワゴンが舞台に登場した。
(うわあっ!)
(ど、どうしたガベル! いきなり大きな声をだすんじゃない。神経質なワカテが驚いてミスったらどうするつもりだ!)
(いや、だって……)
ガベルはぷくっと頬を膨らまし、注意した相棒のサウンドブロックを睨みつける。
「こちら、虹色に輝く羽根でございます!」
若手オークショニアの説明がはじまる。
(わあ! 虹色に輝く羽根だって! すごく綺麗だ! ボク、あれが欲しい!)
(ええっっ!)
(どうして、そんなに驚くんだよ!)
(いや、だって……ガベル! お前、いきなりなにを言い出すんだ? 驚くところはいっぱいあるだろ! というか、驚かない方がおかしいぞ!)
サウンドブロックの反論に、ガベルは一瞬だけ考え込む。
(そうだよね。オークションスタッフは、オークションに参加できないもんね。入札しちゃだめだもんね。ボクってば、うっかりしてたな。でも、あれ……すごく欲しい。なんとしてでも欲しい! 後で落札者に譲ってもらおうかな)
(いや、ガベル……それ以前に、お前は自由にできる金を持ってないだろ!)
(それなら、大丈夫。みんなが帰ったあとに、金庫を開けて取り出せばいいじゃないか。たくさんあるよ。暗証番号と開け方なら知っているよ。ボクなら簡単にできちゃうかもしれないでしょ?)
(……いや、そもそも、そんなことは、簡単にやっちゃいけないから。それに、ガベルが言っている資金調達方法は、立派な犯罪だから!)
名案だ! と真顔で頷いているガベルに、サウンドブロックはすかさずツッコミを入れる。
(サウンドブロック……わかってないね。バレるから犯罪になってしまうんだよ。バレなければ、犯罪として立証できないから、それは犯罪じゃないよ)
(……俺のガベルが変だ)
かつて見たことがないくらいの熱い眼差しで、ガベルはワゴンの上にある出品物を見つめている。
(くそっ。俺もそんな熱い視線でガベルに見られたい……。くそっ!『虹色に輝く羽根』が羨ましすぎるぜ)
悔しくて、羨ましくて、ふるふるとサウンドブロックは身体を震わせる。
なぜ、ただの綺麗な羽根に対して、ガベルはあんなに情熱的な眼差しを注ぐのか。怒りがふつふつと湧き上がる。
「こちら、七色にキラキラと輝く美しい羽根……」
若手オークショニアが声を張り上げ、一生懸命に出品物の説明をしている。
一生懸命なのだが、経験とやる気というか、仕事に対する情熱がちっとも足りておらず、ベテランオークショニアのような心地よい説明ではない。
例えるのなら、若手オークショニアは『丸暗記した原稿を読み上げているだけ』で、ベテランオークショニアは『物語を聴衆に滔々と語ってきかせる』といったところか。
とにかく、若手オークショニアの説明は耳障りで、心がちっともワクワクしてこない。
うっとりと羽根を見つめていたガベルには雑音でしかなく、イライラが募ってくる。
「……ガチャ石のレインボーカラー! その神秘の色の通り……」
(ちょっと! どういうことだよ!)
若手オークショニアの口上に、ガベルが激怒しはじめる。
(いや! それは、俺のセリフだ!)
サウンドブロックも怒り心頭である。
仕事中なのに、相棒以外のことに気をとられるなど……許せたものではない。
(この美しい羽色をよりにもよって、ワカテくんってば、低俗な『ガチャ石のレインボーカラー』なんかに例えるなんて! ボキャブラリーなさすぎ! ボクの大切な羽根が汚された! ムカつく!)
(え? いつからその羽根がガベルのものになったんだ?)
(一目みた瞬間から、心を奪われたに決まっているじゃないか。これって、もしかしたら、一目惚れっていうヤツかな?)
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