第18話 目覚める秘められし力

 小さな呻き声しか出せなくなったナツメさんから視線を切り、やかましかった集落の人たちを睨みつける。

 彼らは一様に押し黙って、言葉を発しない。

 その姿に満足した私が笑みも漏らすと、何故か彼らは怯えた様子を見せた。

 失礼な人たち。


 ソルダムさんへ顔を向ける。

「外野が黙っているうちに、続きを再開しよう」

「え、あ、ああ、そうだな」


 どういうわけか、声を震わせて冷や汗を流しているソルダムさん。竜神を前に、まだ恐怖があるのかな?

 その竜神の方も不思議なことに動きが硬い。

 私を見て、様子を窺い、警戒心を抱いている。供物くもつを殴ったことに驚いているのか、はたまた怒っているのか?

 


 私はその隙を逃さず、ソルダムさんの名前を呼び、最後の突貫を試みる。

「ソルダムさん!」

「おう!」


 竜神が私の動きに反応する――でも、それは鈍く遅い!

 私の拳が顎に命中する。巨体を揺るがす竜神――そこに雷球!

 バチバチとした激しい音を立てて、竜神の表面に焦げ臭い煙が舞う。


 私とソルダムさんは左右からひたすら拳を飛ばし、剣を振るう。

「がぁ!」

 竜神の咆哮!

 ひとまず距離を置き、私は舌を跳ねる。


「チッ! はぁはぁ、もう! こっちの体力は限界なのに、やっぱり届かない。このぉぉおぉぉお!!」


 大声を上げて、自分を鼓舞する。

 その大声に応えて、ソルダムさんも吠える。


 二つの声に竜神は僅かに体を震わせ怯えを纏う。

 だけど、私たちの拳は全く届かない――そうであっても、とにかく、今は竜神の様子がおかしいうちに、一発でも多くぶち込まないと!!



――エイ


 戦いの様子を観察していたエイは、心の中だけで声を広げる。

(ユニの暴虐に触れて竜神は警戒を示したけど、それだけ。このままだと、ユニは竜神に敗れ、命を失う)



 彼は二人の動きを目にして、くすりと笑う。

(クスッ、傷を負い、動きは鈍い。体力は底をつきかけて、注意力が散漫になっている……事故が起こりやすい環境。そう……これから起こるのは事故だ)


 彼は瞳をくわりと開けて、ソルダムを見た。

 ソルダムは左手に雷球を宿して、それを竜神にぶつけようとしていたところ。


 しかし、不意に膝がカクリと落ちて、狙いが逸れる。

 それは疲れか? いや違う!

 エイの超能力の仕業……。



 ソルダムは悲鳴にも似た声をユニへぶつけた。


「ユニ! よけろぉぉぉぉぉ!!」

「へ? きゃぁあぁぁあぁぁぁあぁぁ!!」


 ソルダムの放った雷球がユニに当たり、電撃が全身を貫く。

 焦げ臭い匂いが辺りに漂う。

 びりびりとした痺れが彼女の手足を覆い、全く動かせない。

 仰向けに倒れ込もうとするユニは、星々が瞬く夜空を瞳に映す。

 その煌めきが意識を失いかけた彼女を現実へ引き摺り戻した。



(あ、か――なにが……ソルダムさんの、らいきゅう……いしきが……星? 綺麗……って気を失ってる場合じゃ――――えっ!?)



――ドクン、とした衝撃が心臓を打ち鳴らす。

 背筋に寒気が走り、鳥肌が全身を覆う。


(ちょっと、なにこれ?)


 足元から火傷するような熱が駆け上がり、意識を覚醒させる。

 瞳には紫と黄金が溶け込む不可思議な色が宿り、彼女は雄叫びを夜空へ捧げた。


「うあぁぁああぁぁあぁぁあぁ!!」


 全身から黄金の光を放って、彼女はひたすら叫び続ける。

 光は柱となり、漆黒の闇夜を切り裂く。

 この姿を前に、ソルダムは言葉をおぼろとした。



「な、な、なにがおこって……これは魔力……俺の魔力とは比べ物にならない魔力が、ユニから溢れ出ている」


 エイはソルダムの怯えを見つめ、次にユニへと瞳を振った。

(ふふ、無理もない。ユニが持つ魔力はソルダムの数十倍)


 彼は黄金の光を纏うユニを見つめる。

(地球人……魔法文明が九割以上を占める宇宙において、科学を根幹と置く貴重な文明圏。そうでありながら、非常に魔法と相性の良い厄介な種族。全ての地球人が例外なく魔法の才を持ち、一度開花すれば瞬時に大魔導士と呼ばれるほどの魔法使いになる)


 彼は一度瞳を閉じて、さらに言葉を心に広げる。

(しかも、その才を引き出すのは簡単。先程のように魔力に触れるだけでいい。ただそれだけで、地球人は大魔導士となってしまう。そう、地球には潜在的に数十億の大魔導士が存在する。だからこそ、数多の生命体や高位存在が地球人を監視して、時にワレワレのように研究対象として扱っている)



 瞳を開けて、再び膨大な魔力に身を包むユニの姿を青の瞳に溶かし込む。

(その中でユニは大きな才能を持つ。そのため研究対象に選んだ。さらには、あらゆる生命体の心を恐怖にねじ伏せさせる暴虐という才能まで持っている、この二つが重なり合うとき、理知では届かぬ進化の姿を望めるかもしれない。だからこそ――)


 エイは視線をユニから外し、船の修理を行っているであろうリアンがいる場所へ瞳を投げた。

(他の生命体・高位存在の目からのがれられたこの場で、ユニを進化の研究材料としたい。リアンは反対するだろうが……フフフフ)

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