チャリパイEp11~ジョン・レノンの幻の楽譜~

夏目 漱一郎

第1話それは噂話から始まった

チャーリーズエンゼルパイシリーズの愛読者諸君は覚えているだろうか?

森永探偵事務所とは、まさに天敵とも言える国内テロ集団『尊南アルカイナ』の存在。そしてその組織に属する五人の精鋭部隊の存在を……

詳しくはチャリパイスピンオフ作品『テロリスト羽毛田尊南』を読んで頂ければ幸いだが、ここで簡単にそのメンバーを紹介しておこう。


必殺爆弾仕掛人

『Sexyセイ』(表向きは専業主婦)


超精密スナイパー

『ゴルゴ・サトゥィーン』(表向きは多忙な工場勤務の会社員)


千の顔を持つ男

『マギー・シン』(別名寝落ちのシンとも呼ばれている)


茶道家も真っ青

『お茶汲みメイ』(自称プリティーメイ)


超攻撃的ネゴシエーター

『ドラゴンゆみ』(熱血中日ファン女子大生)


これら五人は、東京が地元のシン以外は、それぞれ茨城、広島、山梨、そして名古屋と、集合がかかる時以外は各人の住む土地でバラバラに生活をしている。

しかし、ドラゴンゆみは今年の四月から地元名古屋の大学を卒業し、東京の大学院へと進学する為に上京していた。


新宿、カクテルBAR

『ドラゴンズ』…


たまには洒落たバーで飲むのも良いだろうと、森永探偵事務所の四人は、今夜久しぶりにこの店へと足を運ぶ事になった。


「久しぶりだな~この店も」

「ゆみちゃんまだバイトしてるのかしら」


アルカイナの『ドラゴンゆみ』は、夜この店でバーテンダーのアルバイトをしていて、シチロー達はゆみと面識があった。しかし、それはバーテンダーとしてであり、この時まだシチロー達は、ゆみが尊南アルカイナのメンバーである事は知らない。


「さぁ気合い入れて飲むぞぉ~」


「ひろきが気合い入れて飲んだら、お店のお酒大丈夫かしら…」


てぃーだが冗談混じりにそんな心配をすると、「それは言えてる」とシチローと子豚が笑って賛同する。


♪カラン


ドアに付けられたベルを鳴らして店の中に入ると、カウンターの向こうには気だての良い髭のマスターとバーテンダーのゆみが、にこやかに微笑みを浮かべ立っていた。


「こんばんは~」

「これは『チャリパイ』の皆さん~お久しぶり~」


シチロー達はゆみの正体を知らないが、ゆみの方はシチロー達の素性を知っていた。

知っていて、なおかつ平然とした態度で四人と接しているところは、大胆不敵なネゴシエーターのゆみらしいところだ。そして、今夜この店にはもうひとり…顔馴染みな人物が居た。


「おや…?暫く来ないうちに~ニクイねマスター」

「え?そんな物は入れてないけどな…」


シチローの言葉に、マスターが不思議そうな顔で首を傾げる。


「だってほら、あそこ光ってるじゃない?」


シチローの指差したカウンターの奥の方を、横にいた子豚達も不思議そうに凝視していた。


「あ…動いたわ…」


すると、間接照明だと思っていた塊が、ぬぅ~っとボトルの影から浮き上がった。


「誰が『間接照明』だ!誰がっ!」


そこには、カウンターの一番奥で、アーリータイムスをロックで煽っていた尊南アルカイナの羽毛田尊南が、スキンヘッドを真っ赤にしながらシチロー達を睨みつけていた。



「羽毛田だったのかっ!」



「まあまあ~ボス『ミラーボール』って言われなかっただけでも良かったですよ~(笑)」

「フン!『アーリー』もう一杯だ!」


まるでフォローにもならない言葉を羽毛田にかけるゆみの台詞の『ボス』という部分に、シチローは首を傾げる。


「あれ?今、羽毛田の事『ボス』って言わなかった?」


「何だ?お前達、知らなかったのか?……ゆみはウチの精鋭部隊のメンバーだぞ!」


当たり前のようにそう語る羽毛田の言葉に、シチロー達四人は目を丸くして驚いていた。


「えええ~~~~っ!」

「そうっ今後とも宜しくね、チャリパイの皆さん(笑)」


四人に向かってニッコリと微笑むゆみの可愛らしい笑顔は、どう見てもテロリストとは無縁の美しい笑顔だった。



♢♢♢



『天敵』と言っても、チャリパイとアルカイナはいわば『喧嘩する程仲が良い』といった類いであるから、この場で取っ組み合いが始まるという訳では無い。


「そういや、ゆみちゃんロンドンに行ってたんだって?」


バーボンベースのカクテルにひと口つけた後に、シチローがゆみに向かって切り出した。ゆみの大学での専攻は、英文科である。それ故、本場の英語を肌で感じ慣れ親しむ為に、ゆみは夏休みを利用しておよそ1ヶ月の間イギリスのロンドンへとホームステイ研修に出掛けていたのだった。


子豚が、羨ましそうに呟く。


「いいな~私達なんか、パーティーに呼ばれた先で『殺人事件』が起きて大変だったのよ!」

「詳しい話は『チャリパイエピソード10』を読んでね」


はっきり言って、宣伝である。



「それじゃあ、ロンドンでの土産話とか面白い話があったら聞かせて欲しいわね」


てぃーだが、そんな事を言ってゆみに微笑みかけると、ゆみはまるで秘密の話を打ちあけるかのように、少し声を潜めて雰囲気たっぷりにこんな事を語り始めた。


「この話は、ロンドンでお世話になった音楽関係の仕事をしている、あるイギリス人に聞いた話なんだけどね……ビートルズ時代の『ジョン・レノン』が書いた未発表曲の楽譜が、実はこの東京のどこかに残っているらしいの……」

「え~っ!それ本当に~!」


ゆみの話に驚く一同。


「そりゃあスゴイな!…本当だったら、何十億の価値があるよ!」

「それを探し出して英国の国有財産にしようと、『MI6(イギリス諜報部)』のエージェントが極秘で日本に来ているなぁんて……噂だけどね♪(笑)」


話し終わると、ゆみは

「まあ、そんな都市伝説がロンドンにもあるって話よ」と、悪戯っぽく笑ってみせる。


しかし……


「うーん…何十億の楽譜が日本に……」


既にシチロー、子豚、ひろき、そして、奥でアーリーを煽っていた羽毛田までもが、恐ろしく真剣な表情で顎に手を当てながら天井を見上げていた。


「何考えてるの?…皆さん…」


てぃーだが、心配そうな顔でその四人の様子を伺う。


「あの~…噂ですよ?う・わ・さ……」


そして2時間後……


「よ~し!ビートルズの楽譜を見つけて大儲けするぞぉ~!」


見事に酔っ払いのチャリパイと羽毛田は、真っ赤な顔をして肩を組みながらもう片方の腕で拳を振り上げていた。


「さぁ~噂の楽譜は本当に見つかるのか!『チャリパイエピソード11』のはじまり~はじまり~♪(笑)」














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