俺と私のミステリー研究会(未設立)
椎木結
第1話 源次郎とミステリー部
「ーーー何度も言うがミステリー部は今年で廃部になった。純粋に下級生の入部がなかった部活だからなぁ。ま、何だ。この
「そう、ですか」
斎賀高校の職員室にて押し問答が繰り返されていた。
一方はくたびれたスーツ姿の女教師。ボサボサとした髪を整え、身なりをしっかりとすれば男子生徒どころか教師にすら恋心を抱く者は少なくないだろう。そんな原石とも言える彼女ーーー
もう一方は高校一年生であるが、恵まれた体格と優れた容姿を持ち、爽やかな印象を抱かせる青年である。だがその表情は厳しいものであった。最近身長が180の大台に乗った乙女漫画から出てきたような人物ーーー
源次郎の視線から逃れるように菟道は机に広げられた資料を手に取り、PCに文字を入力していく。
その姿は「話す事はない」と、口にしなくとも言っているようなものだ。
源次郎はため息を一つこぼし、賄賂として購入していたコーヒーを彼女の机の端に置いて退出する。
静かな校内。
だが、対照的にだだっ広いグラウンドからは老若男女関わらず、青春の声が聞こえてくる。
僅かに開けられた窓から入り込む風は春の香りが漂ってくる。
斎賀高校ーーー現代に珍しい、少子高齢化すら忘れてしまいそうなマンモス高である。
新校舎四階、旧校舎五階。プールにグラウンド、弓道場まであるその高校は全国の優秀な学生を集めた、次世代の人材を育成する超進学校であり、優秀な生徒をより優秀に育てる場所でもある。
将来を確約された野球選手やサッカー選手だったり、メディアに出ている今をときめく美少女弓道生、高校生声優。
別枠では官僚の息子や大企業の令嬢、有名漫画家などが多く在籍している。
本人の家柄も多分に影響するが、それ以上に重要視されるのは成績や実績である。
最早高校入試とは到底形容出来ないほどの無理難題を合格し、圧迫面接と言う言葉すら生温い面接を乗り越えて初めて入学と言う門が開かれるのだ。
斎賀高校に通う生徒、教師含めた全ての人間がその狭き門を通る事が許された優れた人材であると言える。
それ故に斎賀高校の学業行事は全てがぶっ飛んでおり、去年の文化祭ではガチのクラス別料理対決が開かれた。優秀者には全国展開への切符が渡された程であり、現在も全国的に繁盛している事からそのガチさが容易に窺える。
そんな優秀なものが集まる斎賀高校に異物が一人紛れ込んでいた。
それは入学と同時に職員室に駆け込み、ミステリー部に入部したいと声を大にして宣言した源次郎その人である。
彼の素行は至って平凡。運動能力は上の下程度。好きな食べ物はペペロンチーノ、と斎賀高校に入学出来た以外は普通な一般人である彼であるが、他の人とは違う点が一つだけあった。それは
『飽くなきミステリーへの探究心』
である。
若干言い過ぎであるが、幼少期からミステリージャンルに触れ、育った彼は体の大半がミステリーで出来ていると言っても過言ではなかった。新人類である。
小学校中学校とミステリーに明け暮れ、青春の大半をミステリー小説に費やした彼の苦労は計り知れない。
そんな彼であるが何故斎賀高校に入学を決めたかと言うと一重に『ミステリー部』があるからである。
近くの高校にはそんな部活動はなく、あったとしても精力的に活動していない。記念受験だと思って体験入学に向かった斎賀高校でのミステリー部の先輩方を見て心が踊った訳である。
まぁ、そんな先輩方の努力は廃部と言う形で終わった訳だが。
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