西日本魔法少女大戦

にゃべ♪

第1話 魔法少女マルルとキリエ

 廃墟となった市街地で少女が大型モンスターと戦っている。ステッキから放たれた魔法エネルギーがモンスターに直撃、一体を倒した。その時に発生した爆発で、半径200メートルが一瞬で吹き飛ぶ。

 この一撃でかなり消耗した魔法少女は、同じく傷だらけの仲間と合流した。


「ここはもうダメみたい……」

「早く! こっちだ!」


 消耗した方の魔法少女は、光弾を放つ遠距離系魔法少女マルル。傷だらけの方の魔法少女は、ブレードを使う接近戦闘系の魔法少女キリエ。2人は現在唯一の魔法少女だ。

 彼女達は今、孤独な戦いを強いられている。


 突然現れた異世界モンスターに対し、対抗勢力である西日本魔法センターは、かつて同様の脅威に効力を発揮した魔法少女システムを復活させた。

 しかし、適合者の数が揃わない内にモンスターの数は増え続け、戦況はますます悪化するばかり。現在、システムの適合者は僅かに2名。たった2人で総勢何百体ものモンスターの大群を相手にするのは、あまりにも分が悪かった。


 モンスターの発生源である大阪の特異空間の封印が出来ないまま、魔法少女達は敗走を続けていた。西日本と東日本の境界、本州と九州の境界、本州と四国との境界では巨大な魔導壁が作られ、モンスターを西日本内に閉じ込める対策が取られている。

 該当地域に居住していた国民のほとんどは既に退避済みだ。


 今、本州の西日本エリアにいるのはこの事態の対処を任された魔法少女のみとされている。2人は大阪を捨て、兵庫を捨て、岡山へと向かっていた。

 マルルは、車の走らなくなった国道を駆け抜けながら相棒に声をかける。


「でもどうするの? 岡山で迎え撃つ気?」

「とにかく体勢を整える。撃退は出来なくても、耐えていれば本部から増援が届くかも……」

「それは当てにしない方がいいよ」


 モンスターから十分な距離を取り、魔法少女達は休息を取った。無人のコンビニから商品を拝借して、魔法でインスタント商品を調理。ささやかで虚しい食事を摂りながら、今後の作戦についての話し合いが行われた。この時も口火を切ったのはマルル。

 彼女は味噌ラーメンをすすりながら、相棒の顔を見る。


「魔法少女はモンスターへの対抗策だったはずだよ。どうしてこんな事に……」

「一体一体を倒すなら問題ない、単に奴らの数が多すぎるんだ」

「このままじゃ私達……」


 ラーメンのスープを飲み干してマルルはうなだれる。幼い頃からの親友のキリエと一緒に魔法少女になった時は共に喜び合っていたけれど、それがこの敗走に次ぐ敗走――。ただの消耗戦となってしまっては、彼女でなくても気落ちしてしまうだろう。

 そんな親友の姿を見たキリエは、ぽつりと希望を口にする。


「聞いてくれ、実は逆転の手もない事はないんだ」

「え?」

「魔法少女と言えば、今の私達に足りないものがあるだろ」

「もしかして……」


 マジ顔キリエのマジトーンに、マルルはゴクリとつばを飲み込む。魔法少女、今の自分達に足りないもの――。彼女は指を顎に乗せて想像を働かせた。


「実力?」

「いや、私達は十分強いよ」

「じゃあ、もっと強い魔法?」

「まぁ、それもあったらいいけど……」


 相棒が中々答えに辿り着かなかったため、しびれを切らしたキリエは仕方なく正解を口にする。


「使い魔だよ。マスコットキャラって言ってもいいけど」

「あっ、それか! でもマスコットキャラなんて戦闘の役に立つの?」

「それが全然違うらしい。すごく強いって話だ」

「マジか」


 確かに、魔法少女と言えばマスコットキャラとセットな存在だ。ただし、魔法少女作品でマスコットが戦闘にすごく役立つ描写のある事は少ない。だからこそ、マルルは思いついても口にはしなかった。

 話がマスコットの流れになり、遠距離攻撃系魔法少女は素朴な疑問を口にする。


「って言うか、マスコットなんてどこにいるの?」

「実はその資料がある。かつての魔法少女が戦った時のものだ」

「これって……」


 キリエがマジカルバッグから取り出した資料によると、かつて魔法少女と共に戦った強力な使い魔が、岡山で地域の守り神として祀られているらしい。

 この事実を知ったマルルは、そこに希望を見出した。


「じゃあ、すぐにでもこの使い魔を探して仲間にしようよ!」

「ああ、だが今日はもう遅い。明日の朝イチに出発しよう」


 こうして、2人は強力な助っ人になる使い魔を探しに岡山へと向かう。晴れの国はまだモンスターの被害を受けておらず、立派な街並みに人だけがいないと言う不気味な雰囲気を醸し出していた。

 魔法少女達は、資料に従って山の奥地へと入り込んでいく。


 魔法で強化された身体能力で険しい道中も楽々と乗り越え、たったの半日で該当地域へと辿り着いた。そこは、昔から人が住んでいた歴史のある村だった場所。

 住民の避難は完了していて、とっくに廃村状態だ。


「あ、これかも!」


 使い魔は割とあっさりと見つかった。村の中央の目立つ場所にどんと鎮座していたからだ。これで村おこしをしようとしていた形跡すらあった。


「フクロウだったんだね」

「しかし参ったな、石化の封印の解き方が分からない」


 そう、かつて先代の魔法少女と戦った使い魔は、石化して悠久の時代を耐え抜いていたのだ。今こそ活躍の時が来たと言うのに、そのための石化だったはずなのに、その技術は既に失われてしまっている――。こんな皮肉な事はなかった。


「どうしよう。何とかして封印を解かないと」

「私達なら出来るはずだ。正規の方法じゃなかったとしても」

「よし、やろう!」


 折角の逆転の切り札をあきらめるなんて出来ない。2人はうなずきあうと、石化解除の方法を探り始めた。お互いの得意魔法を浴びせてみたり、聖水的な魔導アイテムを駆使してみたり――。

 いずれの方法も有効打にはならず、作業は難航する。


 2人が実質的な足止めを食らっている間に、この小さな村にまでモンスターが現れ始めた。鎮守が目的なのでモンスターが近付けば自動的に石化も解けるかもと言う淡い期待は見事に打ち砕かれ、この期に及んでも使い魔石像には何の変化もないまま。


 石化した使い魔が破壊されたら戦況は変えられないと、キリエはここで決断する。


「マルル、お前はここで使い魔の封印解除に専念しろ!」

「キリエは?」

「私が時間を稼ぐ!」


 彼女は自慢のブレードに魔力を注ぎ込んで、襲ってくるモンスターを倒しに向かう。1人残されたマルルは、必死で自分の魔法力を石像に与え続けた。もうこの方法くらいしか、石化を解く方法が思い浮かばなかったのだ。


 キリエは気合を入れてモンスターを倒し続ける。攻撃が決まれば一撃で倒せるものの、同時に敵の攻撃も受けやすいハイリスクハイリターン戦法。体力に余裕のある内はまだ有利だったものの、疲労が溜まってくると段々不利になってくる。

 7体目のモンスターを倒した時、消耗した彼女に隙が生まれ、モンスターの一撃を受けてしまった。


「ぐあああっ!」

「キリエ!」


 親友のピンチにマルルはたまらず駆け寄った。すぐに弾幕を張り、一時撤退する。それからは一進一退の攻防が続き、魔法少女達は少しずつ、けれど確実に体力を減らされていく。2人はやがて使い魔の石像前まで下がってしまった。このままだと、戦闘の被害を受けて使い魔の石像も破壊されかねない。

 そう判断したキリエは、敵の目をそらそうと正反対の方向に飛び出した。


 けれどタイミングの悪い事に、そこにもモンスターが現れる。マルルはすぐに援護射撃をするものの、魔力を使いすぎた彼女の攻撃は弱く、モンスターの勢いを止められない。その攻撃は確実にキリエの体を貫こうとしていた。


「ダメーッ!」


 静かな山間に、いたいけな少女の悲痛な叫びがこだまする。次の瞬間、今まで何をしても変化のなかった石像が光を放った。


「やかましいホーッ!」


 ついに使い魔が復活したのだ。復活したフクロウは、全長30センチ程度のまるまると太ったぬいぐるみのようなフォルム。

 けれどその身に秘められた力は絶大で、一瞬で周囲にいたモンスターを口から発した超音波的なもので倒しきってしまった。


「俺様の名前はトリだホ! 魔法少女達、俺様が目覚めたからには勝ちは決まったようなものだホ!」


 目覚めた使い魔は、いきなり上から目線で2人に自己紹介をする。態度はともかく、その力は伝説の通り桁違いなもの。魔法少女達は強力な助っ人を仲間にして、ついに反撃の狼煙を上げたのだった。


 目指すは、大阪にある今もモンスターを吐き出し続ける特異空間。2人の戦いはまだ始まったばかりだ。

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