26.カーケンのプレゼント
俺たちはマーリンに案内されて、カースレイド商会の倉庫にやってきた。
中では商会の社員たちが1メートル四方の木箱を囲んで立っていた。これがカーケンから俺に届けられた荷物のようだ。
「カースレイド商会に送りつけてきたってことは、アクセル君と私たちの関係がバレてるってことだよね」
ユリーナが不安そうな顔で言った。
「そういうことになるな。カーケンに攻撃される前に商会の本拠を移した方がいいかもしれない。確かドーンポリスに支社があったよな?」
「うん。ライジング家に守ってもらえるかな?」
「ニートに頼んでみよう」
「まずは、カーケンが何を送ってきたかを確認しましょう」
タラサンにうながされ、俺たちは木箱の前に移動した。木箱の蓋は釘を打ちつけて閉じてあるようだ。
「危険かもしれないので、アクセル様は下がっていてください」
ティコがかばうように俺の前に出た。
確かに、カーケンが俺に真っ当なプレゼントを送ってくるはずがない。きっとろくでもないものが入っている。
「釘を抜いて」
「はい」
ユリーナが命令し、社員たちは釘抜きを使って釘を外し始めた。
「アクセル様、私に開けさせてもらえませんか?」
タラサンが言った。
「君が?」
「何が入っていたとしても、私なら大丈夫ですから」
どんな根拠があって言っているのかわからないが、タラサンが言うなら大丈夫だろう。そう思えるぐらいに、俺は彼女を信頼していた。
「そうだな、じゃあ頼む」
「はい」
社員たちが釘を抜き終わったところでタラサンは木箱に近付き、躊躇することなく蓋を持ち上げた。
「まあ、これは驚きました」
中をのぞきこんだタラサンは、まったく驚いた様子もなく言った。
「どれどれ」
危険はなさそうなので、ユリーナも箱の中をのぞきこんだ。
「うきゃあああっ!」
そして倉庫中に響き渡るような悲鳴を上げた。
何事かと、俺とティコも中身を確かめる。
「これは……」
そこに入っていたのは、たくさんの人間の首だった。10人分ほどはあるだろうか。
「どの顔も見覚えがありますよ。これは不死鳥軍団の内通者たちです」
ティコの言葉に俺はうなずいた。
俺たちが寝返らせ、不死鳥軍団の兵舎に火を付けさせた者たちだ。
すべての首を箱から出して並べ、顔を確認していく。
「間違いありません。僕が声をかけて集めた人たちです」
「うん、私も覚えてる」
ユリーナは口元を押さえ、青い顔で言った。「これは最初にすべり台を使って寝返らせたイアンって人だよ。他の首も全部見覚えがある」
「なるほど、つまりカーケン殿下はすべての内通者をあぶりだすことに成功したわけですか。これで不死鳥軍団はまた行動できるようになります。困りましたね」
タラサンは表情がないので、まったく困っているようには見えないな。
「君は何を見てもまったく動じないんだな。たいした胆力だ」
「別に」
「あ、そう」
「ここに首を送りつけてきたってことは、彼らを寝返らせたのはアクセル様の仕業だってことを、カーケンは確信してるんでしょうね」
ティコが深刻な顔で言った。
「その通りだ。これは俺に対する宣戦布告と受け取っていいだろう」
俺は踵を返し、出口に向かって歩き出した。
カーケンに会うために。
1人で王城にやってきた。
その辺にいた不死鳥軍団の兵士をつかまえて聞いたところ、カーケンはエロイに会うために親父の病室に行ったらしい。
エロイも一緒にいるんじゃ、込み入った話はしにくいな……。
まあいいや、あいつがエロイとどんな話をしているのか気になるし、行ってみよう。
親父の部屋の前には衛兵が立っていたが、俺の顔を見ると通してくれた。
「失礼します」
一声かけてから中に入ると、親父が横たわるベッドのそばで、エロイとカーケンが向かい合って立っていた。
「おうアクセル、久しぶりだな」
カーケンは陽気な声で話しかけてきた。だが目は笑っていない。「このアタシからのプレゼントは受け取ってくれたか?」
「ああ、なかなか気の利いたプレゼントだが、少々置き場所に困るな」
「そうか、邪魔なら土にでも埋めておけ」
俺とカーケンは相手を視線で殺すかのように、にらみ合った。
カーケンの怒りがひしひしと伝わってくる。俺のせいで自分の兵士を内通者として殺すはめになったのだから、当然だ。
「あなたたち、何があったのかは知りませんが、陛下の御前でケンカはいけませんよ」
エロイが釘を刺してきた。彼女の前でこれ以上の険悪なやり取りはやめた方がいいだろう。
「エロイ殿、カーケンと何かお話し中でしたか?」
「ええ、ルシアの謀反を知ったカーケン殿は、すぐにシャコガイ家を討伐するべきだと主張しているのです。そして自分をその討伐軍の総司令官にしてほしいと」
なるほど、カーケンが話し合いなんて方法に納得できるはずがない。不死鳥軍団を動かせるようになったことだし、戦いたくてたまらないのだろう。
もしカーケンが総司令官としてシャコガイ家の討伐に成功すれば、その声望は大きく高まる。
そうなれば諸侯たちの支持も集まり、彼女が国王選挙で当選することになる。それはまずい。
俺はカーケンに顔を向けた。
「兵を集めるには金が足りないぞ」
「これ以上の兵を集めるつもりはねえ。諸侯の招集も必要ない。不死鳥軍団だけで充分だ」
「まさか! 2000人に満たない兵力でシャコガイ公領に攻め込むつもりか?」
先日の兵舎の火事で多くの死者が出たから、人数はかなり減っているはずだ。
「トリダンシアには食糧の備蓄がないから、ルシアは籠城はしない。野戦なら兵数で下回ろうと、アタシが負けるはずがねえ」
「周辺の町や村で食糧を徴発し、トリダンシアに集めて籠城するかもしれないだろ」
「そんなことをすれば領民に餓死者が出る。聡明で慈悲深いと評判のルシアが、そんな選択をするはずがねえ」
どうも既視感があるなと思ったら、さっきの俺とモイゲンのやり取りと同じじゃないか。
俺が言っていたことを、ここでカーケンが同じように主張しているのだ。認めたくないが、やはり俺とこいつは考え方が似ている。
「ルシアは俺たちが思ってるよりバカなんだ。彼女が理性的な人間なら、そもそも謀反を起こしたりはしない」
俺はさっきモイゲンにやり込められた論法を使った。
「む……」
「おまえは戦いに関しては理性的な判断ができる。だからといって相手も理性的に動くだろうと期待すると、思わぬ失敗をすることになるぞ」
「がーっ! このアタシに対して偉そうに説教をするんじゃねえっ!」
俺たちは激しくにらみ合った。エロイがいなければ取っ組み合いになっていただろう。
その時、コンコンと部屋の扉がノックされた。
「失礼します。ここに父上がいると聞いてうかがったのですが、入ってもよろしいでしょうか?」
俺とカーケンはハッとした表情で、同時に扉に顔を向けた。
「どうぞ、お入りなさい」
エロイが答えると、ガチャリと扉が開かれた。
そして入ってきたのは――、
「お久しぶりです、エロイ殿。父上が危篤と聞き、聖都から戻って参りました」
俺の兄で、カーケンの弟。
第2王子のレイスだ。
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