#15 side:???
「………──」
触り覚えのある、微かな魔力を肌で感じた。
消えゆく灯火のように、小さくて見失ってしまうほどに弱々しい。
無くなってしまうより速く、座標を固定してすぐに飛んだ。
そうして目の前に広がる光景を見た。
集落……一つの村だったのだろう。
黒く焼け焦げてしまっていた。
人一人誰もいない。
感じたものはなんだったのだろうか。
村を囲む周囲一帯へ大規模に魔法陣を展開する。
規模を考えれば見ることのできる時間はたったの24時間がせいぜい。
「〈
時間軸を設定し、今から過去へ時間を遡っていく。過去へ直接的に干渉することは不可能であっても、間接的に干渉する──過去を覗く──ことはできる。
1時間、3時間、5時間、7時間と巻き戻していく。
まだ何も現れてこない。
13時間、17時間、19時間と未だ変化は無い。
「……!」
23時間前まで遡ったところで、ようやく過去に変化が訪れていた。
村から外れ、少し離れた場所から大きな音が聞こえてきた。
巨大な何かが地面に落下するような、重い音。
けれど距離があるため人の姿は捉えることができない。
24時間前には、また何も映らない。
「ぅ………っ!」
全身から魔力を振り絞り24時間を越えたさらに過去へと意識を介入させる。
脳が押し潰されそうなほどの負荷が一気にのしかかってくる。脳が処理できる情報量の限界へ到達しようとしている。
「はっ………はっ……」
24時間30分前……24時間50分前……
そこで見えてきたのは、男一人と女一人が歩いていく姿。
後ろ姿なためその人物を確認することはできず、さらには見える過去の世界が全てボヤけて見える。
過去への介入はここまでだ。
「はぁ………はぁ…………っ」
結局は何の魔力を追ってここまで来たのかも曖昧なまま。
魔法陣を展開するまでもなく元の場所へと移った。
頭の片隅に置いてあった五年前の記憶を思い出した。
忘れられるわけもない、あの日のこと。
何のために魔法があるのかと考える日々が増えた気がする。
昔は──この人の為に強くなる、役に立ちたいと思いながら必死に頑張った。
今はただ、五年前のあの時を悔やんで自分を恨み、それを忘れたいがために強くなろうとしている。
忘れられるはずもないのに。
逃げることしか考えていないのだ。
あの日の後、パーティは解散し、私はあの国を出た。
あれだけ昔の思い出が詰まったあの場所にいるだけで、胸が押しつぶされそうだから。
静かな森を歩いていると奥から人の声が聞こえてきた。
悲鳴のような甲高い声だ。
でも別に私には他の冒険者を助ける義理なんてない。
以前ならそう思っていただろう。
声のする方角へ急ぐと、前方に複数の人影が見えた。
魔法使いらしき男が二人と、その背後に倒れているのは剣士の女。
そこに寄り添うようにしているのはヒーラーだろうか。
「ギィィ!!ギギィィィ……!!!」
全身が緑色で手には武器を持っている。極めて人間に近い姿の魔物──ゴブリンだ。
ゴブリンの脅威度は千差万別でランク付けするのが難しい魔物と言われている。
ゴブリンと一括りに言ってもその種族は多種に渡り、ギルドが把握しきれていないほどの種類がある。
彼らが対峙しているのは人間のおよそ二倍近い体格の上にどの個体も剣を持っている──ナイトゴブリンだ。
「こいつには指一本触れさせねーぞ……!ハァ……ハァ……醜い魔物が、いい加減くたばりやがれ………!!」
目の前に魔法陣を展開させ、燃える炎が姿を現した。
規模はここ周辺を焼き尽くすほどの威力──炎属性上級魔法に匹敵する。
それなりの実力者パーティのようだが、あれを放ってしまえば──
「ダメだ!!そんなものを撃てばこの森が燃えるぞ!!」
彼の横にいる同じ魔法使いが怒鳴り叫ぶ。
「そんなこと、考えてる場合かってんだよ……。ここで俺たちが負ければ、こいつらがどんな目にあうか、お前も分かってんだろ……!」
後ろに庇っている女二人を見てそう言った。
ゴブリンの知能は魔物の中でも異常なほど高い。
人間の行動から知識を得てより人間に近い動きをする。
だからどうすれば人間が嫌がるか、どうすれば自分たちが気持ちよくなれるかを知っている。
「クソ野郎が……!!」
渦を巻きながら燃え盛る炎が彼の手から放たれた。
ナイトゴブリン程度であれば、あの威力で十分屠ることが可能だ。
「ギギィィィ……」
だが、すばしっこい相手にはあの速度で迫る魔法を避けることくらい造作もない。
躱された渦めく炎は木々へ衝突し、瞬く間に大炎上。
「ギギャギャギャッ──!!!」
剣を構えたナイトゴブリンたちがすぐさま前衛の魔法使い二人へ飛びかかった。
「────〈
急激に周囲一帯、ないしは森全体を凍てつかせるほどの冷気を解放した。
全てのナイトゴブリンは凍り、燃え広がろうとする炎すらも氷の世界へ
「な、なんだよ……これ……!」
「何もかもが凍った……」
本来他の冒険者のクエストを邪魔する行為は、表上言及されていなくとも暗黙の了解で禁止されている。
それが上級冒険者間であれば尚更騒動に発展しかねない。
「あっ、あなたは……」
ヒーラーの女が歩き寄る私を見て何かを悟った顔をしている。
「だ、誰だよこいつ。まさか、この女がやったのか?」
「おいお前、この人を知らないのかよ!?この人は───」
事情を説明し、手柄から何まで私は一切関与しないということでその場は終わった。
一定数以上のクエストをこなさなければいけないという制約を持たない今、手柄なんて必要ない。
欠けることなく氷漬けにしたため、ナイトゴブリンの牙は綺麗に取れるだろう。
結局今日一日は珍しく大した事もしないで終わりそうだ。
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