魔法職の女からバカにされたので国を出て辺境の地で剣を極めることにした

はるのはるか

#1 分裂そして決意

 魔法の利点は間合いを気にすることなく攻撃できるところにある。自在に飛ばせ、周囲一帯を攻撃することだってできる。

 剣の利点、これは剣を持てば誰でもできるわけではない。二流になれば速度で距離を詰めて間合いに入ることができる。一流になれば斬撃を飛ばすことができるかもしれない。そうなれば魔法と遜色なく、かつ近距離戦で優位に立ち回ることが出来る。


 それでも、やはり誰彼構わず戦力になれる魔法職は有利なのだろう。


「あんたのそれは!近距離だけでしか戦えないの、迷惑なのよ!」


 "迷惑"

 この言葉は俺の心に刺さる矢を更に深く抉った。


 クエストを達成し終えたその帰路で、パーティメンバー全員から言葉責めだった。

 当然だ。

 最後に予期せぬ高ランクの魔物が俺たちの前に現れた時、俺は一番に立ち向かった。しかし相手は平気で魔法を使う魔物だった。近距離では自信があったが、魔法職相手には未だまともに戦うことができない俺には到底適わなかった。


「あんたが前線で戦っている間、私は何一つ魔法を撃てなかったの。何でか分かる?!あんたがいたからよ!」


「それは、本当に悪いと思っている。だけど、俺だって強くなりたいと思ったんだ」


「そう思うのは勝手だけど、近距離でしか戦えない剣士なんて、私には邪魔でしかない!」


 これは今に始まった事でもない。前にも、さらに前にもこう言われたことはあった。


 俺たちのパーティは魔法職、剣士、ヒーラー、タンクの構成で、比較してバランスよくメンバーを集めた。

 それぞれに特性があるから、バランスよく組めば最強のパーティを作れると自負していた。

 だけど結局、一定以上の実力が伴わなければそう上手くいく話でもなかった。


「……ごめん、これからはもっと───」


「私はもう我慢の限界なの!結局は獣しか狩れないじゃない。あんたがどれだけ鍛錬して剣を振っていたって、私にはそれがバカにしか思えない。努力が何?あんたの努力はただ剣を適当に振っているだけなの」


 今までの鬱憤がここに来て全て出ていた。


 だけど、俺だって毎回毎回謝ってたまるものも溜まっている。


「そこまで言うことないだろ!?いつもクエストの大半の魔物は俺が倒してるし、お前はいつも後ろで暇しているだけじゃないか!なんの苦労もしてないでよくそんなに言えるよな。魔法を撃つときだって詠唱が長すぎるんだよ!その間俺とタンクがどれだけ時間稼ぎしてると思ってるんだ?!」


「なっ──!?そ、そこまで言わなくても…──」


「いいや、言った。悪いがもうこれ以上はこのパーティには居られない。他の二人には悪いけど、剣をバカにしたお前とはもう一緒のパーティでいることは出来ない。──じゃあな」


 パーティの宿舎とは反対の方向へと足を向ける。

 もうここに俺の居場所はないし、居てやる気にもなれない。


「ちょっ───ガヴィ!待ってよ、バカにする気はなかったんだって。つい私もカッとなっちゃって言いすぎた」


 引き止めようと、俺の背中に投げかけてくる。だけど俺は歩み足を止めることはしない。もう二度と振り返ることは無い。


「ねぇ、何でよ止まってよガヴィ!ごめん!私が悪かったから、ねぇ。ねぇってば!!」


 三年前にパーティを組んで以降、何度もぶつかる場面はあったけどなんだかんだ仲良くやっていけてる気がしていた。それももう単なる過去の事に過ぎない。


 俺の剣は、今はもういない父さんの分まで背負っている。剣士として最後まで戦い死んでいった父さんの形見のようなもの。

 それをバカにするやつは誰であろうと許すことはできない。それが例え、昔一緒に冒険者になると誓った幼馴染だとしてもだ。


「……もっともっと強くならないとな」


 生まれ育ったこの街を出て、この先もっと遠い地を目指す。

 この国を出ると、冒険者という稼業は存在しなくなり、完全に別世界だ。


 そして俺はそこで強くなり、誰にもバカにされないくらい剣を極めることにした。

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