第一話 出逢い

聖秀せいしゅうは知っている者以外、絶対に部屋には入れない。

(誰が部屋に入れたのだ)

もしや、皇帝付きの鳳流ほうりゅうだろうか。

「どうぞ、お召し上がりくださいませ」

鳳流が自信満々に言うので、今日の料理はうまいのだろう。だが、聖秀に感情というものがないので分からない。

(余の感情を動かせる者は天才だな…。だが、そんな者はこの世のどこにもいない)

そうかすかに思い、料理を見つめた。

恐る恐る箸を取る。感情を動かされないよう、気をつけながら。

もういつから、こうなったのだろう。

とりあえず朝餉あさげをいただく。

(…なんだ?この味は…!)

しまった。感情が動いてしまった。

おしまいだ。だが、止められない。

今日の朝餉がいつもの何倍もおいしいのが悪いのだ。

「鳳流、今日の朝餉は誰が作った?」

真顔で問う。

「お気に召されましたか?この者が作りました」

ずいぶん質素な衣だ。恐らく、宮女きゅうじょだろう。

「そなた、名は?」

その宮女は表を伏せたままだ。

自分が怖いのだ。「冷徹王」の自分が。

聖秀は足を組んだ。なるべく、冷静でいられるように。

「…翠…凛と申します」

翠凛すいりんか…。よし!今日から皇帝付きの女官にょかんになれ」

翠凛は、は?という顔をしている。

口元が上がっているのが自分でもよくわかる。

笑っているのだ。作り笑いではなく、真の笑顔で。

何年ぶりだろうか。このように笑うのは。

(ありがとう。翠凛)

自分の妃にすることを、このときの聖秀にはわからない。

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