第4話 俺は貢ぐためにガチャを回す


 職業とスキル。魔法少女の魔法の力との違いについて説明しよう。職業はスキルを補助するためのもの。スキルは異能の力。

 今まで、願い、葛藤した分だけ自分の願うスキルになりやすいとされている。

 魔法の力が救いだとするなら、スキルは欲望。


 ただスキルが欲望だと言うのなら、一人一人全く違うスキルになるのでは、と思うだろう。だが、そんなことはなく少しの違いがあるくらいだ。違いはあるが、人間社会である以上、他とは違うと思っている人でも共通は存在する。


 では、俺のスキルはどうだろう。はい、そうです。共通するものなし。情報なしです。


 仕方がないので切り替えて、ユニークスキルとでも思って置こう。

 とりあえず、使ってみないことにはどういったスキルか分からない。


 スキル【ダンジョンマイスター】。


 んー? 何も起きない?


 辺りを見回すが何もなく、変化が全く見られない。

 これはもしや、漫画でよくあるハズレスキルというやつでは?

 終わった。あわよくば人気配信者を助けて俺の時代計画が水の泡に。


 また。また、転生直後のように失ったものはないにも関わらず、失望する。期待だけか先に先に進んで行く。

 そこで、ふと気づく。手になにかを握っていると。


 鍵があった。黄金に輝く不思議な鍵が。 


 何の鍵だ? いつから持っていた?


 あ、もしかして! 

 これがスキルでは?

 もし、スキルだとしても、どこにどうやってこの鍵を入れて使うのかが検討もつかない。


「なあ、チータブ。これなんの鍵だかわかるか?」

『……』

「おい、聞こえてるだろ。なあ」


 転生チート、チートタブレットの返事は来ない。

 返事がないことに疑問を覚え、背中にある鞄から取り出した。


 俺はそれを見て違和感を感じる。ワンコールでいつもは出てくれるから。実質、俺の嫁である。都合のいいヤツとも言えるが。

 タブレットの裏面、アルミで作られた画面、つまり何も情報が表示されない側面は問題はなかった。

 問題はガラス張りだったはずの画面。その画面には一つの「鍵穴」が堂々の存在感を醸し出して存在していた。


 鍵と鍵穴。


 つまり、そういうことだろう。

 俺は鍵穴に鍵を入れ、回した。



【――調停システムを開始します――】



 ◇◇◇



「ねえ、ねえってば。アンタ何処から来たわけ?」


 ん? 俺は……途端に眠くなって。ああ、そうだ。調停システムとかよくわからないシステムが開始されて。謎の光が。それで……。


「わたくしもなにがなんだか……。正直よくわかりませんの」


 あれ? わたくし? 俺は間違いなく、「俺」と言ったはず。


「わたくし! わかりませんの!」


 「俺」と言えない。何故? まあ、そんなこともあるか。人生流れるままに生きてきた俺がこんなことで騒いだり、狼狽えたりはしない。

 なるようにしかならないからな。


「そ、そう。わかったから。そんな騒がないでも」

「のーっほっほっほ!」


 高笑いがすごいなぁ。今のは苦笑いのつもりだったのに。

 というか、この黒髪ロングでツーサイドアップ、赤目でサキュバスの尻尾だけが付いている女の人は誰。


「うるさい、ってそれなら、アンタ、名前は? 私はミソラ。七迷宮の主の一人、ミソラ・ホリデイよ! 死して崇め奉りなさい! ふふん」


 なんや、こいつ。「わたくし」と同じくらいテンション高いし、いきなり死ねって。言っていいことと悪いことがあるだろ。


 それと七迷宮というのはこの世界にある迷宮の数のこと。迷宮が現出した街「遊乃宮市」。空に大きな魔法陣が浮かび上がっていて、「神殿」とその周りを囲う「六の塔」がある。


 もし、その主というのが本当なら実力は相当のものだ。


 んー、どういえばいいのだろう。俺はここがどこで、どうしてここにいるのか分からない。それに高笑いキャラになっているのも分からない。俺は分からないことだらけだ。


「ふん、言いたくないってわけ。それなら仕方ないわ、カース・オブ・ライトニング」


 出会い頭の攻撃。その意味は――死。


 俺はその攻撃で死を覚悟した。こんなことなら、金稼ぎに行かなければ良かった。

 温室でずっと――


 それは咄嗟の行動だったと思う。

 迫りくる攻撃を理由も分からず俺は止めていた。


「のーっほっほ、わたくしは【調停者】であり、【ダンジョンマイスター】。この塔を頂きますわっ!」


【迷宮のマスター承認、成功。第七迷宮の塔を獲得することができます。なさいますか?】


【YES NO】


 死にそうになって、塔を獲得とか、なぜ攻撃を止めれたのかとか、正直意味不明だけど、俺にも一つ分かることがある。

 選択肢はYES。どんなゲームでも、NPCと話しかけるとき、お使いイベントのとき、なんでも俺は脳死でYESを選択する。

 つまりはそういうことだ。山があるからなんとやら。


 ポチッ。


【第七迷宮を獲得しました。それにより、ダンジョンシステムを解放いたします】


「――イトニング、ライトニング。なんで、攻撃が効かないの。この場は私の領域。私が倒せない存在はいないんだから! なのになんで……」


【現在、設定により第七迷宮内での主への攻撃は無効です。設定の変更はダンジョンシステムをお使いください】


 なるほど。ミソラの生み出す幻想的な紫の光エフェクトに目をつぶりさえすれば安全安心ではあるのか。


「なんですのその攻撃は。そんなもの痛くも痒くもありませんのよ。貴女、本当に迷宮の主ですの? おザコですわ! 弱いですわ! のーっほっほっほ!」


「っ、そう、もういいんだからっ! ダンジョンシステムで追い出してあげるわ。……なっ! なんでっ! つ、使えない?」


 あ、ダンジョンシステム内にガチャの項目がある。


「ガチャですわ!」


 モンスターガチャと武器ガチャ。

 二択と。それだったらもちろん。


「武器を売却なさって、お金ガッポガッポですわ」


 勝ったな、風呂入ってくる。俺の目標、金稼ぎ終了のお知らせ。迷宮編、完。

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