第4話 祖母ちゃんのレシピは人気もの


 祖父が話を持っていき、道の駅に納品する話が進んだ。

農業法人『コリ』は、道の駅の商品についても担当しているという。祖父から話を聞いて、道の駅の担当という人がやってきた。


丸まった雰囲気の人懐っこい感じの男性だ。どんぐりまなこで愛嬌があって、なんか狸の置物に似てるなと迅は思ったが、口にはしない。


もらった名刺には

『農業法人 コリ 営業担当

 綿貫わたぬき 太郎』

とあった。


まずは味見をと、用意してあったプリンとクッキーを食べてもらう。


「幾太郎さんに聞いていましたが。

これは鈴花さんの物と遜色がないです。また、食べられる様になるなんて」


感動されてしまった。祖母を偲んでくれているんだと、迅は思ったのだが。本当にところはわからない。


話し合いの結果、取り敢えず週2で出品することに。売れるかどうか様子見でという事でそうしてもらったのだ。当初は出来るだけ毎日、なんて言われたが。


「いや、絶対売れますよ。これは。鈴花さんのファンがほっときませんて。余ったら、僕が買います」


担当者の綿貫さんは、人懐っこい笑顔でそう言った。良いのかそれ、とは突っ込まなかったが。


お土産ではないが、祖父にプリンやら何やらを彼に持たすように言われていたので、お菓子詰め合わせセットみたいになっていたものを渡す。


本当に異常なほど感謝されたのには引いてしまった。ちょっと涙ぐんでいるようにも見えたのは気のせいか。


細かなことなど打ち合わせをして、トントンと話が進み明後日から早速納品する事に。販売用の袋や瓶などを後で持って来ますねと、綿貫さんはお菓子詰め合わせセットを大事そうに抱えて帰っていった。


 さて、夕方になって瓶などを持ってきてくれたのは、綿貫さんではなく別の人物だった。スラッとした感じの糸目の男性で、見た目爽やかな雰囲気だ。


「配送を請負っている菰野こものと言います。品物の受取なんかは僕が担当しますので。今後ともよろしくお願いします」


瓶などが入った重そうな箱を軽々と運んできてくれた。

丁度、焼いたクッキーが食べ頃になったところだったので、彼にも味見がてらお裾分けをした。


「僕も鈴花さんのお菓子のファンだったんです。本当に、また食べられて嬉しいです。僕は特にお萩が好きだったんです。ああ、鈴花さんは豆腐やお揚げも作ってたんですよ。あれも美味しかった」


懐かしそうにそう口にする。それを聞いて迅は、

(レシピノートについてまだ全部は見ていなかったな。そういうのもあるかもしれないのか。後でチェックしてみよう)


と思う。彼も覚えているが、祖母の料理は美味しかった。自分があれほど美味しく出来ているとは思っていなかったので、祖父や綿貫達が褒めてくれるのがなんだか不思議ではある。自分で食べる分には、祖母の方が遙かに美味しかった気がするからだ。


「じゃあ、今後ともよろしくおねがいしますね」

お土産にクッキーを渡すと、嬉しそうに菰野さんは帰っていった。


二人の反応を見ていると、道の駅に出品してもコリ内での内部消費が大きそうな気がするが。何がいいんだろう、我が事ながら彼は首をひねった。



 交渉には綿貫さん、瓶などを届けてくれたのは菰野さんだという話を祖父にすると、


「アイツら、代わる代わるに来たのか。まあ、お前の事を見に来たんだろうて」

ニヤニヤ笑いながら言われた。


「若い女の子なら解るけど、男が男を見に来たって面白くもなんとも無いと思うが」

そう返すと


「いやあ、この土地で残って生活して行けるかどうか、見に来たんだろうよ。ばあさんの血を引く孫だしな」


祖父の言葉に、田舎のここは若い者が、仕事等を求めて都会に行ってしまうから、此処にやってきた自分が珍しいんだろうかとも思ったが、何か引っ掛かる。


それに祖母の血を引く孫だからっていう理由がよく分からない。でも定着する可能性がある人物が来たことに対して、顔を見に来たというのは判らなくはないかとも思うが。


 『コリ』の二人と話をした事で、子供の頃を思い出した。祖母の料理は美味しくて、田舎に遊びに来る度に兄と二人でガツガツ食べた記憶がある。


迅はそうでもなかったが、兄は好き嫌いの多い子どもだった。だけれども、ここに来ると何でも食べたのだ。野菜でもなんでも、田舎の方が美味しいと主張していた。


祖父母は、それもあってかよく野菜などを送ってくれた。祖父母の野菜や祖母の作ってくれたお菓子が届くのが、家にいる頃はとても楽しみだった。


子供の頃に兄は

「僕は、お祖父ちゃん家に住みたい」

と良く言っていた。いつからだろう、そう言わなくなったのは。


 そう言えば、田舎で祖父母が農作業をしている時に、というのに会った事も思い出した。大柄でちょっと迫力のある人だった気がする。偉丈夫とでも言えばいいだろうか。


おぼろげな記憶で、顔とかもあんまり覚えてないが、祖母と一緒にいたところを見た記憶が、ボンヤリと思い出された。


「あの人は誰 ? 」

と祖母に聞いたら、

「うちのお手伝いさんよ。色々と手伝って貰っているのよ」

と笑って答えてくれた。


今の今まで、あの時のことをすっかり忘れていた。あのお手伝いさんはどうしているのだろう。後で祖父にでも聞いてみようか、何となく気になってそう思った。



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