魔法研究所: 異世界でチームで挑む問題解決のファンタジー物語(仮)
@yuyu777
第1話 省エネ魔法陣
「大精霊祭用の魔法陣の開発ですか?エヴァンス?」
急に上司に呼ばれて、会議用の丸テーブルに私と同僚2人が左右に座る。広げられた書類に目を通した。耳にかけた黒い髪が流れて顔にかかる。
黒髪の女性の両隣りには白髪の大柄な白人男性と、日に焼けたような、健康的にみえる浅黒い肌をした女性が座っていた。
「そうだ。教会から依頼があった。次の大精霊祭で使う、大型魔法陣の省エネルギー化をしたいとのことだ」
エヴァンスと呼ばれた男性が淡々と言う。ガッチリとした体に、ブラウンの短い髪を立たせている。
「今は1時間に8人の同時詠唱が必要だが、これをもっと少ない時間と人数で行いたいらしい。どう思う?シマ?」
シマと名前を呼ばれ、黒髪の女性が書類から目を離し、上司の方に向けた。シマが上司が詳しい要件を話さず「どう思う?」と聞く時は、大体仕事の選択肢が無い時だと解っていた。
「神官になりたい人が減ってるんだ。そこで費用をかけて新しい魔法陣の開発に踏み切ったんだろうさ」
隣に座っていたカイが、自慢の白髪をかきあげながら背筋を伸ばす。彼にも選択肢があまり無いことは解っているらしい。
シマは上司がこのように急ぎ用件を言う時は、大抵何か理由があるとわかっていた。
「それで?急に呼び出して新しいプロジェクトの説明をするときは、何かあると思うんですが、期間はどれくらいなんですか?」
「それがな……」
エヴァンスは淡々とプロジェクトスケジュールを伝える。
「つまり……我々の開発期間は4ヶ月だ。」
「えっ!4ヶ月!?」
シマの驚きに、テーブルの上のお茶が揺れた。動揺してテーブルに力を入れてしまったのだ。
「普通の開発期間の半分くらいって事ですか?」
「ちょっと短めねぇ……」
ソフィアが、テーブルに肘をつきため息をした。褐色の肌を持ち、ストレートな黒髪のショートカットをゆらゆらさせている。
「もう来週から始めないとまずいじゃないですか」
カイが書類を見直す。プロジェクト進行の逆算を始めた。
「調査時間を2週間と少しとして、確認も含めたら大体3ヶ月くらいしか開発期間がありませんね」
「どうする?断ってもいいが、珍しい仕事ではある。これができれば、今後は教会と太いパイプが出来るから、なるべくこの仕事を受けたいと言うのが研究所の本音だ」
シマはエヴァンスの含みがある発言を、心のなかで噛砕いて考えた。
エヴァンスは上司としてはとても優秀だ。しかし。魔法研究所の中間管理職の身であり、押し返せない仕事内容も時々発生することはやむを得ない。とはいえ、本当に無理なスケジュールの仕事は持ってこない。かならず交渉する。
この期間の仕事を持ってくるという事は、「仕事が可能である」のと「まだ交渉の余地がかならずある」からだ。つまり、完遂できる可能性が85%以上はある。
カイが身を乗り出して質問する。
「この仕事終わったら昇給します?」
「それはお前の頑張り次第だ。カイ」
エヴァンスがぴしゃり。と言う。カイが冗談だ。と言わんばかりにニヤリと笑った。
「昇給したかったら、博士研究かもう一度学位に進んだら良いじゃない」
ソフィアが、カイの方を向き、真面目にアドバイスをした。
「俺はもうそっちには進まねぇ。実務の方が好きだし、何よりストレスで自慢の白髪の毛が抜けてモテなくなっちまう。デリケートなんだよ俺は」
「嘘ばっかり」
ソフィアが呆れたように首を振り、救いがたいわね。という目をシマに向けた。
「まったくこの2人は。シマ、お前はどうしたい?」
エヴァンスが、この冗談好きな2人の対応は慣れている。と言わんばかりに、シマに質問をした。
「……私はこの仕事は出来ると考えています。50%の省エネとはいかなくても、20%ぐらいなら可能だと思います」
「俺も同意だ。俺は50%近くはいけるんじゃないかと思っているが、これは調べてからだな」
カイが続ける。
「私も、この仕事は面白そうだし、エヴァンスが持ってきたなら、可能なんでしょ。と思っています。省エネの可能性については、シマと同じ意見です」
ソフィアも真面目に回答した。
「決まりだな。教会に返答してくるとしよう。まず、現行の魔法陣の調査ができる様に話をつけてくる」
エヴァンスが書類を集め、颯爽と扉を出ていった。
魔法研究所: 異世界でチームで挑む問題解決のファンタジー物語(仮) @yuyu777
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