僕の幸せ、アオイトリ

墨色

第1話 コウカンチョウ

 終わりを告げるチャイムが鳴る。


 変わらない毎日。同じような毎日が最高学年になっても続いていた。朝起きて高校に行き、放課後まで授業を受けて一人きりの部活に行って帰る日々。


 野鳥研究会。


 先輩達が卒業して、僕だけになってしまった部活動は本当に寂しかった。新入生もとうとう入らず、僕が卒業すればおそらく廃部となるだろう。


 申し訳なく思うけれど、僕に強引な勧誘なんて出来ない。


 それでも僕には親友が居て、それなりに楽しくはあった。



「よ、椎名。これまたお願い」


「修…いいけど、たまにはちゃんとしてよ」


「悪りぃ悪りぃ」



 また、いつものように雑務を押し付けてくるのは、田端修。


 クラスは違うけど、同じ高校に進学した中学からの親友だった。


 彼は家柄か、困ってる人を放っておけない性格で、自分からクラス委員に立候補するくらいのお節介焼きだった。


 ただたまにそのお節介が僕に回ってくる。


 押し付けられたのは、放課後クラス委員が名指しで頼まれた資料室の整理だ。


 大量の書類を持って行って、それから仕分けしないといけないらしく、結構時間がかかるからと言って押し付けてきた。


 部活に行っても仕方ないだろと言われて僕は引き受けた。


 修はそれから僕の方をみてニヤニヤしていた。


 彼は僕、上原椎名にいつも優しい。



「そうだよ田端くん。いつも上原くんばっかりに押し付けちゃダメだよ」



 僕を庇ってくれたのは澤村結菜さん。彼女は小学校からの幼馴染で、中学高校と同じだった。


 当時から変わらない大きな瞳と小さなピンクの唇。太陽を浴びると明るく光る緩くウェーブを描くロングヘアー。少しのんびりとしたところもあるのが魅力で、スタイルもいい。


 そんなディスプレー──見た目じゃなくて、僕は彼女のことが昔から好きだった。


 それは修には伝えていて、と言っても中学の時に言い当てられたのだけど、挙動不審になった僕はさぞかし滑稽だっただろう。


 それくらい僕は陰気な感じで、反対に修は少しチャラいところはあるけれど、女子の人気も高く、男子の中心にいつも居るような男だった。



「じゃあまた澤村が手伝ってやれよ」


「それは…いいけど…」


「じゃあな〜あとよろしくー」


「あっ! 田端くん! もぉ…田端くんのお仕事なのに…」



 真反対な性格が良かったのか、不思議と彼とはずっと仲良くしていて、今回のように澤村さんとの時間を自分が悪ものになりながらも強引に作ってくれたりする。



「(お礼はまたもらってやるからな)」


「ちょ、修!」



 いつものように、すれ違いざまにこっそりとそう伝えてくる。


 お礼とはテスト対策のノートだ。身体を動かすことに長けてない僕は、勉学に打ち込んだ。


 おかげさまで学年一位をキープしてるけれど、鳥以外に趣味なんてないしスマホなんて持ってないから単純に時間があるだけだった。


 でも、そういうお節介をしてもらっても、恥ずかしくて、結局この後緊張して、何にもアクションなんて起こせないのを知っているのにいつもしてくる。


 鬱陶しいとは決して思わないし感謝もしてるけど、いつも嬉しさが唐突だから困ってしまう。



「さ、澤村さん、いつも悪いし、今日は大丈夫だよ」


「ううん、悪いのは田端くんだよ。気にしないで。一緒にいこ?」


「う、うん…」



 やっぱり澤村さんは優しくて可愛いな。


 今の僕はハワイで多く棲息しているコウカンチョウみたいに顔だけ赤くなってるだろう。


 顔がめちゃくちゃ熱くて顔が見れないよ。

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