あの子
タライ
【架空の日記】あの子
あの子、ほんとに羨ましい。
若くて、可愛げがあって、乳がそこそこ大きくて、会話も軽やか。
中途で、暗くて、地味で、趣味もなくて、可愛げのない私に、ないものを全部持っている。
上司の鈴木さんは、あの子に仕事を振るとき、進捗を確認するとき楽しそうだ。にこやかに話しかける時も、仰々しく詰める時も、いつも視線が生暖かい。
私に対しては無だ。
恋人はできたのか、休みの日には何をしているのか。なぜ取引先に確認しないのか、資料の作成が遅れているのか。
何を訊ねている時も無だ。
それが苦しい。
別に、セクハラだろうがパワハラだろうが、言葉の中に何かがあれば私だって何かを返したい。でも、愛もなければ、悪意も怒りもなくて、これが本当の「業務連絡」なんだな。と乾いた心で笑おうとしてみる。
そして、あの子は仕事ができる。こんな狭いオフィスだと、あの子の失敗も成功も事細かに伝わってくる。あの子の表情や雰囲気から、苦しい気持ちも楽しい気持ちも、周囲の励ます気持ちも、喜びを分かち合う気持ちも。
あの子が、どんどん忙しくなっていくたびに、どんどん出社する気が失せていく。
俺が、若くて可愛い女性社員だったら、みんなの態度は変わるかな?
趣味も、恋愛相手も、セロハンテープの替えも、乾電池の予備も、一緒に探してくれるかな?
こんなこと考えたくない。
あの子は俺にも優しいから。毎週ご飯に誘ってくれて、同期として歳上として尊重しながら、愚痴を聞いてくれるから。俺にかけられる言葉が業務連絡だって理解しているから。
でも、耐えきれないから、転職しよう。できれば、男がいっぱいいて、目立たなくて、楽なポジションがある職場に当たると良いな。
あの子 タライ @taira-tetsubun
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