第10話 カンタヴェールでのお手伝い

 俺がスキルを披露してから、カンタヴェールの町に馴染むのはあっという間だった。

 【生命付与】のスキルは、田舎町の需要にぴったり当てはまったんだ。


「――ふう、これで運ぶ荷物は全部かな?」


 例えば、武具屋のリフォーム。

 手狭になったので家を拡張しようとしたけど、武器や防具の移動は周りの人の助けを借りても難儀なんぎだ。

 そこで俺は、それらすべてを鳥へと変えた。

 刃の羽を持つわしや鎧から生み出されたからすは、人の手を借りずに、しかも必要なところにひとりでに移動してくれる。


「いやあ、助かったよ!」


 作業時間が半分以下に短縮された武具屋の主人が、俺の手を強く握る。


「武具屋は、重いものを何度も運び直す必要があるからね! 鎧や剣、盾を全部鳥に変えて移動させるなんて、本当にすごいなあ!」


 主人はお礼にと、特製のナイフと鞘のセットをくれた。

 こんな感じで、俺は持ちつ持たれつの関係をカンタヴェールで築けたんだ。




「なんだありゃ……虎?」


 他にも、畑仕事でだって俺のスキルは活躍してくれる。

 鋤と荷車を組み合わせて【生命付与】スキルを使うと、尻尾の先端の農具で畑を耕す、車輪の脚を持つ虎の誕生だ。

 流石に物珍しいのか、俺より少し年上の男の人達が、畑にこれを見に集まって来てる。


「尻尾が鋤になってる……虎?」

「いや、鹿?」

「鹿だ」

「鹿でした」


 他にも様々な農具の形をした角を持つ鹿が、ざくざくと地面を耕していくさまを、皆がすっごく興味深そうに見つめていた。


「いんやぁ、ありがたいねぇ。道具が畑を耕すなんて、驚きだよぉ」

「俺も手伝います。お昼までには、終わらせちゃいましょう!」


 俺も、すきくわを手にしておばあちゃんのお手伝いをするんだ。

 途中でなぜか見物人も加わって、結局5~6人くらいの男手もあったおかげか、作業は驚くほど早く終わった。

 そして報酬として、俺や皆は収穫した野菜をたくさんもらった。

 もちろん、毎回手伝いをしてやれるわけじゃないのは、双方承知済み。


 だって俺の主な職場は――アイテムショップ『双角屋』だ。




「――じゃあ、イオリ。この装置とこのスイッチをくっつけて、アイテムを作るぜ」


 ブランドンさんに最初に教わったのは、スキルを使わない仕事。

 アイテムショップ『双角屋』は様々な便利アイテムを自分達で作って、カンタヴェールやその周辺の町に売りに行ったり、店で販売したりしてる。

 俺の元いた世界で言うと、発明家ってところだな。

 で、そのアイテムの製造過程はというと、とんでもなく独創的だ。

 ブランドンさん特製の奇怪な箱にアイテムを入れて、合体させるんだよ。


「いつでもできるように、準備はしてるな?」

「ばっちりです。でも、なるべく火の出ないやり方が……」

「よーし、やるぜ! 合体だ!」


 ブランドンさんと俺は、店の外で彼特製の装置同士をくっつけた。

 次の瞬間、つなぎ目からもくもくと煙が出てきたかと思うと、勢いよく爆発した。


「「どわーっ!?」」


 そう、これがグラント流のアイテム開発術。

 みょうちきりんなアイテムを合体させまくって、まったく新しいものを作る――ウケはいいけど、成功率は半々。

 そして今は、間違いなく失敗してる――というか、床が燃えてるじゃねえか!


「い、イオリ! 水、水を持ってこい!」

「分かりました! 頼む、火を消してくれっ!」


 俺の命令を聞いて、燃え盛る装置に突撃するのは、水でできた狐。

 スキル【生命付与】で、近くの井戸からんだ水に、あらかじめ命を与えておいたんだ。

 狐が飛び込んで消火したおかげで、どこにも火は燃え移らなかったけど、こんな調子でアイテムを作るから失敗の連続なんだよな。


 ただし、50パーセントの確率で完成したものは、よその町で高く売れる。

 特につい最近造った、特殊な鉱石を交換するだけで無限に燃え続ける『カートリッジ式松明』は、双角屋始まって以来のベストセラーらしい。

 ――そしてアイテムの素材を収集するのも、俺の仕事のひとつだ。


「イオリ、そっちに行ったぞ!」


 アイテム開発がない日は、俺はもっぱらブランドンさんに連れられて、近くの平原で素材を回収していた。

 町の屋や行商人から買ってもいいんだけど、どこも売り切れの時は、俺達が直に集めるしかない。

 そんなわけで、俺は今、ブランドンさんと一緒にスライムを追いかけてるってわけだ。

 スライムのことは知ってるだろ?

 あの水色で、ぴょんぴょん跳ねるあれだよ。


「うわっ! ぬるぬるして、捕まえにくい……!」


 で、あいつは捕まえるのがとても大変だ。

 なんせぬめった軟体は、飛びついても腕の間からすり抜けるんだもの。


「やべえな、あのままだと逃げちまうぞ! スライムの素材がなけりゃ、店の『アンロックゼリー』の在庫がなくなっちまう!」

「俺が走っても間に合わない……だったら!」


 こういう時も、【生命付与】のスキルを活用するに限る。

 俺が地面に勢いよく手を叩くと、地面がもりもりと盛り上がり、中からコンドルが羽ばたいた。


『キィーッ!』


 そのまま勢いを殺さず、鋭い爪でコンドルがスライムを捕える。

 さすがの軟体も、爪が食い込むと逃げられないみたいだ。

 もっとも、こっちのコンドルも素材は土だから、硬いものを掴もうとするとボロボロと崩れちゃうんだけどな。


『きゅ、きゅーん!』

「おっ、土くれでできた鳥か! うまい具合に、スライムを捕まえられたな!」


 地面に拘束されたスライムを、ブランドンさんは手際よく背負っていた籠に入れた。


「よし、このスライムから素材を取り出して、『アンロックゼリー』を作るぞ!」

「あの……聞きそびれてたんですけど、アンロックゼリーって何ですか?」

「ダンジョンに落ちてる、鍵のかかった宝箱を開けるゼリーだよ! 鍵穴に押し込むだけで、どんな宝箱も開けゴマ、だ!」


 おお、すごい発明じゃないか。


「ただし、宝箱に化けたミミックには使えねえがな! もしも中身があいつらだったら、怒らせて頭から食われちまうからよ!」

「……ええと、見分ける方法は?」

「ゼリーを入れてからは神に祈るしかねえな、がーはっはっはっ!」


 訂正――ちょっと怪しい発明だ。

 でも、こんな調子で過ごす日々は、俺にとってすっかり楽しいものになっていた。

 とりあえずコンドルを土くれに戻して、俺とブランドンさんは帰路についた。

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