(仮) 音色に舞う

甚殷

第1話

何も考えず、何も言葉を発せず、ただ横になっていた。


病弱な私は、今まで殆どの時間を、この病院で過ごしてきた。

無機質な機械に繋がれ、何も変化のない毎日。

友達なんていない。

どうせ学校に行ったって、一人の時間を持て余すだけ。どこに行っても一人。なら、ここで大人しくしていても同じこと。

夢とか希望は、もってはいけない。

だって、そんなものを持てば、生きるのが辛くなるだけだから。


私のスマホからはクラッシックの«音»が鳴っている。

最近のアプリは、インストールしてない。

何が起こってるのか、誰が何をしたか。

それも興味無い。

一番、嫌なのが、他人の笑い声。

私が、この世界と孤立しているのを笑っているように聞こえるから。

誰かが笑っている声なんて、とても耐えきれない......だって、自分がどんなに惨めかを見せつけられているようで辛かったから。

「こういう捻くれた性格になっちゃったら、終わりよね」

こんな自嘲を咎める人すらいない。


私だって、こんな風になりたくてなったんじゃない。

それでも、最初は明るい未来を夢見てた。

誰よりも頑張って、誰よりも辛い思いをして、誰よりも泣いた。

なのに、なんで今の私に«笑顔»が欠けているのか......

なんて理不尽なんだって、世界を、何より自分を恨んだ。



今日は、一段と大きな溜め息をつき、ベッドに寝転がっていた。

いつ、この生活から抜け出せるのかも分からない。

このやり場のない思いを、久しぶりにお見舞いに来た、お母さんにぶつけてしまったから。

元々、専業主婦だったお母さん。

私の治療費の為に、働いているのも気がついていた。

なのに......

「どうせ、こんなの延命治療だ」

私は知っている。

この生活をやめるということは、«死»を意味する。


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(仮) 音色に舞う 甚殷 @canaria_voice

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