第22話 魔法演習授業
「これが体操着? 変なの」
サーシャは体操着に着替え、体育館に来ていた。
支給されていた体操着は、クラスと名前が書かれた白のTシャツに、紺の厚地の下着のようなデザインの服だった。太ももは大胆に露出し、ソックスを除いて、ほぼ生足だ。
『あら、ブルマじゃありませんこと』
ポケットの中に持ち込んでいたイエローストーンが、初めて口を開く。
「イエローちゃんはこの体操着を知ってるの?」
ほとんどパンツのような体操着は、制服と違ってあまり可愛いとは思えなかった。布地は少なく動きやすいかもしれないが、運動性を重視するならスパッツとかでもいいはずだ。なんでこんな恥ずかしいデザインなのか、謎だった。
『はい、昔、エドガー様がとある校長に依頼されてデザインしたものだそうです』
「ええ! エドガーさんがデザインした!? どうりで恥ずかしいわけだ」
『なんでも、女子学生の羞恥心を魔力に転換することを意図して作られたデザインだそうです』
「やっぱセクハラだった!」
デザインとその意図を聞き、サーシャはがっくりとうなだれる。
「こんな服を着るなんて、やっぱり魔法の勉強は大変だ~」
『まあ女子校ですから、その辺は気にならなかったんじゃないでしょうか?』
確かにここは女子校だから、あまり恥ずかしくないのかもしれない。体育は体育館で行われるため、男性にみられることもない。
だが今日の先生は男(?)のノートンだった。
先に体育館に集まっていた女子生徒も、何人かはシャツを強引に下に引っ張ってミニスカートのようにし、少しでも太ももを隠そうとしていた。やはりこの体操着は恥ずかしいと思ったらしい。
体育館に集まっていたのは、ノートンとポロン先生、それに隣のBクラスの女子生徒達とその担任の女教師だった。合同で授業を行うとの事だ。
ちなみにBクラスの体操着は、チアガールの様なミニスカートの衣装。こちらはスタイリッシュでとても可愛らしい。露出が多いくせにどことなく野暮ったいブルマと大違いだった。
「ではAクラスとBクラスの合同授業を行います。種目は〝マジック棒倒し〟です」
Bクラスのネイ先生(年齢はポロン先生より少し上でスポーティでベテランっぽい)が宣言すると同時に、体育館の両端部分が盛り上がり、2つの台場を形成する。真ん中には高い棒が立っている。
さすがはマホジョの体育館、すごい設備だとサーシャは思った。
「シャルちゃん、マジック棒倒しってなに? 私ルール知らないんだけど」
「相手チームの棒を倒したら勝ちの、簡単なゲームだよ。魔法も魔法具の使用もO
K、台から落ちたらアウトだから、注意して」
なるほど、二つの台から落ちたらアウトなのか。両チームの生徒が手にホウキを持っているのは、飛んで相手の台に移動するためか。
「飛べる子はオフェンス、飛べない子は相手を打ち落とすディフェンスと棒を守るガードに分かれるんだけど、サーシャはガードをお願い」
「は、はい。でも魔法で相手を打ち落とすって、危なくないの?」
「この体育館は魔法の保護があるから、ケガはしないわ。落っこちるけど」
台の下はいつのまにかクッションが展開されていた。痛くはないだろうが、落ちることは落ちるらしい。魔法で相手の陣地を攻め合う、まるで戦争の予行練習だった。
「では両チーム、要求するものを宣言してください」
Bクラスの担任が、手を大きく上げて叫ぶ。
「シャルちゃん、要求するものって?」
「クラス対抗の場合、勝ったら貰えるものを要求できるの」
戦利品まであるとは、ますます戦争じみている。
「Bクラスは、給食のデザート一週間分を要求します」
「ええええ!」
サーシャ達Aクラスの女子生徒達から悲鳴の声があがる。これは負けてたら大変だ。みんなの顔色が変わった。
「Aクラスは何を要求しますか?」
Bクラスの担任に問われ、Aクラス女子生徒はみんな顔を見合わせる。何を要求するか、決めていなかったらしい。ちなみに、相手と同じ要求はできないルールだそうだ。
「サーシャ、決めていいよ」
「ええ!? 私が?」
シャル達から指名され、シャルは慌てふためく。
「サーシャがこのクラスに一番必要だと思うものを要求すればいい。外のコの意見も、大切だと思うの」
他の生徒も同意見の様だ。みんなこちらを見て、うなずいている。
「え、え~と……」
サーシャはせかされ立ち上がるが、何を要求すればいいかわからない。とりあえずこの体操着は恥ずかしい。シャツの裾を伸ばしブルマを隠しながら、もじもじと考え込む。このクラスに必要なものは、いったい何だろうか?
「え、Aクラスが勝ったら、体操着の変更と交換を要求します」
そうだ。この変な体操着は恥ずかしい。この変更が、必要だ。
「おおおおおおおお!」
予想外のサーシャの要求に、Aクラスの生徒からは歓喜の声が上がる。
「ひええええええっ!」
逆にBクラスの生徒からは、悲鳴があがる。
みんな内心ではこのブルマは嫌だと感じていたらしい。それはBクラスの女子も同じで、先ほどまでと表情が違って、真剣なものとなる。
みんな嫌なら、なんでこんな体操着を続けていたんだろう、とサーシャは思う。観客席のポロン先生も、深刻な面持ちでBクラスのネイ先生と何やら話し込んでいる。 部外者が出しゃばったことを言ってしまったかなと思ったが、後悔してもしかたない。少なくともAクラスの生徒は喜んでいるので、良しとする。
「両チームの要求は出そろいました。これよりゲームをスタートします。
3,2,1……スタート!」
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