普通の大学生日記
大犬数雄
1日目 前編ー入学式イチ変なやつー
4月某日
「あー、今日から俺も大学生かぁー!」
入学式当日、漫画の第一話みたいな独り言を言っているやつを見つけた。全身ストライプのスーツに、昨日染めたと思われる金髪。そして到底独り言とは思えない声量のせいで、かなり目立っている。
例年通り咲いた桜に快晴の空、スーツがちょうど良い気温と、絶好の入学式日和の今日。そんな台詞を言いたくなる気持ちも分からなくはない。
ただ、入学早々悪目立ちするのは嫌だったので、そいつのことは遠目に見るだけにしておき、式場の指定された席へと向かった。
「ね、オレ
会場の席に着いたらさっきのやつが隣にいた。なんという不運。この先の大学生活が思いやられる。
しかし、ここで会話を断れるほどの勇気も持ち合わせていないので、ぼくは笑顔で答える。
「
「かい!いい名前だね!どんな漢字なの?」|
「日本海のかいですね」
「うみ、かー!おれの名前フラワーの花って漢字入ってるからさ、二人とも自然って漢字でいいじゃん!」
何言ってんだこいつ、あと台詞のびっくりマーク多いな。心の中でそうツッコんでいると、花男が矢継ぎ早に話しかけてくる。
「てか敬語やめよーよ、同期じゃん!」
「あぁ…そうだね、わかった」
まわりからの視線が痛い。そりゃそうだ。こちらの内心がどうであれ、この辺の座席では俺たちの会話が一番盛り上がっている。
(普通入学式って、隣の人に話しかけるか迷ってる間に終わっちゃっうもんじゃないのか?まだ友達作るチャンスあるしって思いながら六月くらいまでどこのグループにも片足しか突っ込めずにいるんじゃないのか?)
というまわりの心の声が今にも聞こえてきそうだ。
そんなことを考えている間に、花男はもう片方の隣のやつに話しかけている。色黒で肩幅のでかいやつだ。しかも強面だし。よく話しかけられるな。
「えー!すげぇー!」
花男がでかい声を出し、声の主に視線が集まる。しかし、彼はそんなことを気にしていない様子だ。こちらを向いて、強面男の紹介を始める。
「こいつ、
「何言ってんだよ」
思わず言い返しながらも、友達を増やすチャンスをくれたことに内心感謝する。
「どうも、俺は林山人。よろしく」
「ぼく、水野海。よろしく」
花男を挟んで山人と挨拶をする。その間で花男は満足そうにうなずいている。
自己紹介を終えて、花男がまた話し始めようとしたところで、入学式が始まり、司会の人が話し始めた。
入学式と言っても、大半の時間は人の話を聞いているだけで退屈なものだった。花男も、最初の方は元気に拍手していたが、途中からはすやすやと寝ていた。
入学式が終わると、そのままの流れで三人一緒に外へでた。
「二人とも今日一人で来た?オレはひとり!」
「ぼくも一人で来たよ」
「俺も一人だ」
「おー、みんな一人か!てかとりあえず写真撮ろーぜ」
そういって花男はスマホを取り出し、ぼくと山人はされるがままに花男に近づく。花男はなれた様子で自撮りを始め、入学式の会場を背に何枚か写真を撮った。
「よし!いい感じ。じゃあ、写真送るからLINE教えてもらっていい?」
この男、LINEの交換が自然すぎる。あまりにもありきたりな流れなのに、わざとらしさが全くないのがすごい。
三人でLINEの交換をし合い、花男がこの三人のグループを作った。
「よし!これでオレたちさんこいちな!」
「言い方古いぞ、それ」
「さんこいち、ってなんだ?」
「山人、知らないのか?三個で一個ってこと!」
「三個で一個?とんちか?」
「ちがうちがう、三個で一セットってこと。仲のいい、いつも一緒にいる仲間ってこと」
「そうそうそれそれ!海、頭いいな!」
「なるほど、じゃあこのグループの名前はさんこいちでいいのか?」
「いやだよ、ぼくその言葉好きじゃないもん」
「えー、いいと思うけどなぁー。じゃあ、大自然は?俺たち全員名前に自然ものが入ってるし」
「いいなそれ、俺は賛成だ」
「大自然って、そんな名前のお笑いコンビいなかったっけ。いいとは思うけど」
「まじか!誰かと被るのは嫌だなー。海、なんかいい案ないの?」
「うーん、やっぱり三人の共通点は入れた方がいいよねー…。あ、風林火山の火の部分を花男の花にしたらどう?」
「風林花山ということか」
「かっこいいじゃん!でもそれだと海の要素なくね?」
「確かにそうだね、じゃあ、風の部分を海にしちゃおうか」
「
「おー!いいね!全員の要素入ってるし。じゃあそれで決定だな!」
「ちょっと待て、俺の名前だけ二文字分はいってるがいいのか?」
「いいって!やまとは存在がでかいし。な!かい」
「花男が行ってることはよくわからないけど、ぼくも全然いいよ」
「そうか、それなら構わないが」
そんなこんなでグループ名「海林花山」が決定し、お昼過ぎだったこともあって三人でご飯を食べに行くことになった。ぼくはスマホを使って近くのお店を調べる。
「どこ行こうか。この辺にあるのはファミレスくらいかな」
「ファミレスいいな!ドリンクバー頼もうぜ!」
「花男、お前ファミレスでドリンクバー頼むのか?」
最寄りのファミレスに向かいながら、ドリンクバー論争が始まる。
「ファミレス行ったらドリンクバー頼まないともったいないじゃん!」
「ドリンクバー頼む方がもったいないぞ。水で十分だ」
「いろんなジュースをさ、いくらでも飲めるんだぜ?最高じゃん!海はどうなの?」
「ぼくは、頼んだメニューの金額によるかな。大体1500円超えたら頼まない」
「お前ら、なんのためにファミレス行くんだ?安く外食するためじゃないのか?」
「山人、意外とファミレス過激派なんだね」
ぼくのファミレス過激派という言葉に、花男が笑う。
「オレは友達と時間潰すときによく使ってたなー」
「ファミレスって、ファミリーで行くの小学生くらいまでだよね」
「確かに。俺も中学生頃からファミレスで外食しなくなったな」
「えー!オレ高校の時も家族で行ってたよ!」
「それ、同級生と遭遇したら気まずくならないのか?」
「同級生いたら挨拶して、そのテーブルと家族のテーブル行き来しながら喋ってた!」
「お前コミュ力エグいな」
思わずお前と呼んでしまった。花男の行動は、今までの人生で見たことがないほど大胆なのだ。
「そう?うちの家族みんなこんな感じだからな!」
花男がニカッと笑う。
「信じられんな。俺も海と同意見だ」
「だよね、ありがと」
なぜか二人で握手をする。
「えー、俺って変なのかなぁ?」
「変だけど、いい方向の変だよね」
「ああ、変わる必要は無いと思うぞ」
「なんか嬉しー!二人ともありがとー!」
「「ギャルみてぇだな!」」
ぼくと山人が同時にツッコむ。
「へへ」
「なんで喜んでんだよ」
「海、ファミレスってあれか?」
角を曲がった先には、ファミレスの看板が見えた。ピークの時間も過ぎており、人が並んでいる様子はない。
店に着くと、やはりと言うべきか、花男が先頭で入店していった。
「三人なんですけど入れますか?あ、名前書く?わかりましたありがとうございます!」
「どうだった?」
「名前書いて待ってろって!でもオレ達の前に一組しかいなかったからそんなに待たないと思う」
「そっか、ありがとね」
10分ほど待つと、木村の名前が呼ばれ、入店することができた。
「山人側の考えの人が多かったのかもな」
「ファミレス使う理由なんてそれしかないが?」
山人が満足げな表情をしたところで、三人とも席に着いた。
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