知りたがりの狼と血塗れ頭巾
せをは
1.大昔のお話
昔々,人間も動物も,植物もこの世界にはまだいなかった大昔の頃,青い髪をもつ1人の神様がこの世界に舞い降りました.神様は長い間,暗くて広い土地に1人で過ごしていました.しかし神様は,ひとりぼっちでこの広い場所にいるのが退屈になってしまい,自分と友達になってくれる存在を作ることにしました.お日様が何度も空を支配し,お月様も何度も空を支配する.それを幾度と繰り返し,神様の身体が舞い降りた時よりもずっと大きくなるほどの時が経ち,ようやく、自分によく似たモノを作ることができました.神様は大喜びして自分自身でソレに名前をつけました.
しかし,「ソレ」は大変な失敗作だったのです.なぜならソレは神様とは反対の赤色の髪を持っていました.そして,神様の好きなお日様のことは大嫌い.ソレは神様がお話をしても何一つとして返事はしません.神様はソレに,神様自身の持っている大事な「感情」というものを作ることを忘れていたのです.神様は完璧なものを作れず,失敗してしまったことに悲しくなって,ソレを捨ててしまいました.そして,さみしいこの場所にいることが嫌になってしまい,ソレをおいて天界に帰ってしまいました.
神様は天界に戻るとすぐに,自分のことを大好きな黒い髪を持つ「人間」という生き物をたくさん作り,あの場所に住まわせてあげました.人間たちはすぐに神様のことが大好きになり,神様も人間たちがすごく好きになって,食べるものや,住むもの,着るものなどたくさんのものをくれました.人間は大喜びして,もっともっと,神様が大好きになりました.
さて,神様がおいていったソレはなぜ自分が1人ここにいるかわかりません.ソレはひとりぼっちで長い間神様を探すために歩いていました.何度も何度もお日様が登り,沈み.ずっと歩いているとあるとか,自分でも神様でもないモノに出会いました.そのモノは自分に,痛い細長いものを刺して訳のわからない何かを叫んできます.ソレはよくわからず首を傾げました.そしてよくわからないまま,軽くモノの頭を掴みました.モノの首からソレの髪の色によく似たものが吹き出します.ソレは,自分の手にあるモノの頭を見ます.なぜか,腹が空きました.食べてみると神様がそのモノに向かって笑顔を向けています.そして何度も,「完璧だ!」と繰り返します.ソレは賢かったのでわかりました.自分が神様の望んでいた,完璧なものではなかったことに.そして,このモノたちは神様に愛されているということに.自分は捨てられて余ったということに.皮肉なことに,神様が愛しているモノを食べたことによって,ソレは一つ感情を得ました.神様やモノ…いえ,人間を憎む憎悪という感情を.それから,ソレはたくさんの人間を食べました.人間を食べるごとに,いくつかの感情と言語を得ました.神様に捨てられたことへの悲しみ,人間は愛されているということへの嫉妬.自分勝手な神への嫌悪.そして,完璧ではないソレ自身への自己嫌悪.何度も何度も人間を食べました.それはソレ自身の両の手足では足りないほどです.
ゆうに,10や20を超えた時に,ソレはもう人間を食べるのをやめました.ソレはただ,神様に愛されたかっただけなのです.でも,神様はもうソレには見向きもせずに,可哀想な人間たちしか愛してはくれません.ソレはもう疲れてしまったのです.これは,諦めという感情でした.ソレは,人間の住む場所のちょうど裏の深い,深い森の中で1人で暮らすことにしました.そして,ソレは,もう人間の前に姿を現すことはなくなりましたとさ.
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