役作り5
「なんで隠れるんだよ」
「そういうお前たちも隠れてるだろうが」
三人で仲良く木の陰に隠れながら、侵入者の様子を見守った。御手洗が当たり前のようにポケットの煙草に手を伸ばしたところ、水瀬にはたかれていた。
「あれ、お前の先輩か」
「いや違う、あれは例の組員だ。多分けじめの催促に来たんじゃないか、もう指は詰めたのかって」
恐ろしいワードに気を取られているうちに、組員の頭が見えなくなった。ちょうどその位置に、俺たちが掘った落とし穴がある。
「……」
「おい、どうするんだ、落ちたぞ」
「見ればわかる」
「偶然通りかったふりをして助けましょう」
水瀬が言うので、俺たちは植樹の陰から落とし穴に駆け寄った。御手洗の鞄にロープが入っていたので(たまたまらしい)それを救助に使った。
「大丈夫ですか」
ロープをつたい、組員がのぼってくる。水瀬が声をかけると、男は安堵の表情を浮かべた。
「ありがとう、助かったよ」
「君たちは?」
「家主の友人です」
その言葉を使ったことが意外に感じられた。自分の代わりに指を詰めろ、と言われても、御手洗にとっては、友人らしい。
遊びの帰りなのか、その家主が帰ってきた。
「ひっ、どうしてあなたがここに」
組員を見つけると、彼は青ざめた顔をした。
「いい友達を持ったな」
組員は肩をたたいて去っていった。呆然とした様子で、御手洗の先輩は立ち尽くしていた。
「解決しましたよ、貸しですからね」
御手洗はそう言い残し、俺たちも敷地をあとにした。
暗くなった夜道を三人で歩く。
「御手洗君はなんで不良やってるの?」
「なし崩し的に。もともとさ、煙草を吸いながらピアノを弾くのは、憧れのピアニストのスタイルだったんだ。それをまねしたら、一発でメインロードから追放になったよ」
「ピアニストの夢は諦めちゃったの?」
「なんとも言えない。まぁ頼まれて、小銭稼ぎで喫茶店で演奏とかしてるのは未練があるんだと思う」
俺は二人の会話を黙って聞いていた。
「実はね、不良になりたいっていうのは嘘で、私役者を目指してるの」
「そうだったのか」
「夢は逃げたりしないと思う。自分が手放すまでは」
水瀬の言葉に御手洗は少し表情を変えた。目を剥き、微笑みを浮かべた。
「水瀬さんのこと、平井の次くらいに好きかも」
「おい、お前の中の俺の位置付けはどうなってるんだよ」
「また会おうよ。今度はピアノも聞いてもらいたいし」
なんとなく名残惜しい空気の中で、御手洗と別れた。俺は水瀬を家の近くまで送っていった。
「さっきの言葉も台本か」
「それは自分で判断して」
水瀬の表情は読めない。でも答えを確信していた。
「あと、やっぱり練習相手は平井君にお願いする」
「どういう心境の変化なんだ」
「別に」
女優志望の同級生に弱みを握られてモブ役奴隷生活 土呂とろろ @toro_92
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