役作り2
風呂から出ると、ちょうど料理が出来上がって、テーブルの上に運ばれてくるところだった。ケチャップにインスパイアされたのか、メニューはオムライスだった。
水瀬を見ると、彼女専用のエプロンを身につけていた。見たくはないが、エプロンの隙間から下着が見えるし、床には脱ぎ散らかした制服が見える。
「ちなみに隠し味は同情」
「愛情みたいに言うな」
「あ、私もシャワー借りるね」
一応一言あるが、確認と行動が同時に行われる。
食事を終えると、俺は床から水瀬の制服をつまみあげ、洗濯物を回すために浴室に向かった。
すりガラスの向こうに水瀬の姿が見える。そして、向こうも俺の姿を捉えたのか「変態」と声がした。
「すぐに回して乾かさないとまずいだろうが」
俺も大声で対抗したあと、皿洗いと汚れたシンクの掃除をした。十分後、シャワーを済ませた水瀬がキッチンにあらわれる。
頭にタオルを被り、エプロン同様、俺の部屋に置きっぱなしになっていた宿泊用の部屋着を着ていた。それから乱暴に袖を引っ張られる。
「なんだよ」
「ちょっとこっち来て」
「まだ片付けの途中なんだよ」
なぜか寝室に向かう。
電気も点いていないので、真っ暗だった。
「なんのための移動なんだ」
「だって顔見られるの恥ずかしいから」
とはいえ、顔の近さから表情を読み取ることは可能だった。湯上りからだからか、別の理由があるのか、頬が少し赤くなっていた。
水瀬は無言のまま俺に覆いかぶさるようにした。二人とも背後のベッドに倒れこむ。
「水瀬……?」
「あんたのことが好きだったの」
俺の服の上に顔を埋めて、もう水瀬の表情が見えない。
沈黙が走る。
返事をした方がいいのだろうか。
「俺は……」
言いかけたところで、水瀬が突然顔をあげた。
「言い忘れてたけど、恋する殺人鬼の役なの」
「あのなぁ、それを最初に言えよ」
「ドキッとした?」
「してない、全然」
すっかり夜も遅くなっていたので、水瀬は当然のように一泊すると言いだした。ベッドを占領すると満足そうな顔になり、俺も定位置に移動する。
つまり地面に。
「よかったら今日だけ一緒に寝てあげてもいいけど」
「どうせ添い寝のシーンがあるとかだろ」
「正解、遺体と添い寝するシーンがあるの」
「しかも遺体とかよ」
ベッドの上が静かになったあと、仰向けになって天井を見る。それこそ映画みたいだ、と思いながら一人で呟く。
「やっぱり腰痛はお前のせいだよ、水瀬」
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