スローバック. 見えない顔

涼波音

第1話

 特別なことも無く日々を過ごす15歳になると思っていた。当たり前が当たり前じゃなくなったことが苦痛になるとは思わなかった。

 日常なんて、飽き飽きしていたのに懐かしくなるとは思わなかった。



 ✱ ✱ ✱


「吸血鬼いー?は?なんだその変なウワサ」

 部活帰り、同じ方向に帰宅するために歩いていると同級生の白沢しろさわが話題をふってきた。


「いや、だから同じクラスの九尾くのおを見たやつが言ってたんだよ。怪我したのにすぐ治ったって」


 俺は狗神 いぬがみ蒼天あおたか

 隣で歩いているのは、同じ部活でクラスも一緒の白沢 しろさわ零士れいじ

 話題に上がっているのはクラスメイトの女子の話だ。


「九尾が最近怪我でもしてたのか?」

「なんだよ、お前知らねえの?この間の理科室での事故だよ!」

 そんなことあったか?とふと考えてみるものの全く思いつかない。

「相変わらず興味無いことに対しては、本っ当に聞いてねえのな」

 じこ?事故…んー?なんかあったか?


「で、なんなんだその事故とやらは」

 はぁ〜っと分かりやすく肩でため息をされた事に少しのイラつきを感じながらも零士に聞く。

 ここまでの言われような程の話なのか?と思うもののぐっと堪えた。


「1週間前に、学内大掃除あったの覚えてるか?」

 ああ、そういえばそんなのあったなーと思いつつ、それで?と俺は首をかしげた。

「仕方ねえな全く!その大掃除で俺らとは別の班が理科室だったわけ。そこで、サッカー部の宮田がふざけてたんだと。中3にもなってよ」


 宮田と言えば、お調子者だが顔がそこそこイケメンなのとサッカー部のレギュラーということで女子に人気がある。俺はあんまり好きじゃない。というか、ああいうタイプは苦手なんだよな。


「そんで、宮田がふざけた時に教室の後ろにある棚にモップの柄をぶつけたんだよ。その瞬間にバーン!っと薬品棚が倒れちまってさ」


「うわあ、まじかよ。あいつ何やってんだよ本当に」

 ただでさえ苦手なのに、そういう話を聞くととことん苦手になる。同じ班になったやつらには同情するな。


「そんでその倒れた下敷きになったのが、宮田と九尾で、宮田は何針か縫う大怪我だったらしくて来月まで部活はダメらしい。で、巻き添えになった九尾の方が血が出てたって話だったらしいんだけど、次の日宮田と違ってケロッと登校してきたわけだよ」


「へえ、無事なら良かったじゃん」

 九尾の顔なんてあんま思い出せないけど女子が怪我した話はあんまり気持ちのいいもんじゃないし、良かった。


「お前ちゃんと話聞けよまったく。だーかーらー!一緒に下敷きになった宮田は大怪我なのに九尾は全く怪我なしらしいぜ?」


「そんなの当たりどころが良かっただけだろ?」

 何を騒いでいるんだこいつ。


「俺にはそうは思えないんだよ。同じ班の女子に聞いたら、血が出てたから急いで先生呼びに行ったのに戻ってきたら全く怪我なく片付け始めてたとか言っててさ。大丈夫か?って聞いたら、私は怪我ないわよって言ってたらしいし」


 目の前で手を大きく広げ、多分血の流れた姿を示してるんだろうけど、ふーん、としか言いようがない。

 宮田に巻き込まれて可哀想な九尾ってだけだろ。とりあえず怪我してないなら良くないか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る