学生時代に好きだった先輩がタカってくるんだが?
シゲノゴローZZ
第1話 妖怪ヤニタカリ
早いもんで俺も二十二歳かぁ。厳密には二カ月後だけど。
まっとうに生きてりゃ、嘆くような歳でもないんだろうけどなぁ。
えっと、十九、二十、二十一……ちょうど三年働いたのか。体感としては二十年ぐらい働いた気分だよ。
大手でも古い会社はダメだな。パワハラとかモラハラなんて日常茶飯事だし、古いノリっていうの? 体育会系特有の気持ち悪いノリがダメだわ。
年収高かったし、もうちょい続けたかったんだけどなぁ。
「こんなクソみてぇな趣味まで身につけさせられてよぉ……」
まともな会社ならそうでもないんだろうけど、古い会社だとタバコが処世術になるんだよ。喫煙者ばっかの職場だから、タバコを吸うことでコミュニケーション取って生き残る的な? おかげで退職後もタバコ吸うハメになっちまったよ。
薬物よりも中毒性あるんだっけ? 薬物なんかやったことねえけど、わかる気がするわ。大して美味くねえのに、ついつい吸っちまうもん。
「どうすっかなぁ……」
俺の独り言が不気味だったのか、サラリーマンらしきオッサンが半分以上残ってるタバコを灰皿に捨てて、そのまま早歩きで去っていく。
傷つくなぁ……アンタだって嘆きたい時ぐらいあんだろ。世間は冷てぇよ。
ん? なんで仕事もしてないヤツが外で吸ってるのかって? 実家暮らしだから、仕方ねえじゃん。仮にアパートでも、退去費用取られそうだから外で吸うかもしれんけどね。ああ、世知辛い。大昔はオフィスとか電車でバカバカ吸ってたって話を聞くんだが、本当かね。電車の座席で火を消してたとか、絶対嘘だろ。
「あれ? トビー君?」
もう一本吸うかどうか悩んでいたら、昔のアダ名で急に呼びかけられた。
この声は……まさか……?
「あっ、やっぱり飛田君だ」
いや、んなこたどうでもいい。この人は……。
「
この人が生徒会長だからこそ、俺も生徒会みたいなクソ面倒な組織に入ったんだよなぁ。ああ、懐かしすぎて泣きそう。
「覚えててくれたんだ。四年ぐらい会ってないのに」
忘れるわけがない。性格良い上に、隙の多い美人なんだから。
美人すぎないってのも大きいな。もっと人気ある女子生徒も結構いたから、ライバルが少なかったんだよ。まあ、結局相手にされなかったからライバルもクソもないんだけど……それでもいいんだ。一番人気じゃないからこそ推せるっていうかさ。
「一瞬わからなかったですけどね。昔よりさらに綺麗になってますし」
ぶっちゃけ化粧と服の問題だと思うけどな。顔つき自体はさほど変わっていないように見える。でもとりあえずテンプレよ、テンプレ。
はぁ……三年といえど、社会人経験してるとこういうのだけ上手くなるよな。成長したといえばしたんだろうけど、なんか嫌だなぁ。
「あはは、トビー君は嬉しいこと言ってくれるね」
けっ……よく言うぜ。皆から言われなれてるくせに。
いかんいかん、せっかく憧れの先輩と再会できたんだ。ワンチャン……は無いにしても、話を引き伸ばさないと。
「正直者ってのが、俺の数少ない長所ですから」
……過去の話だけどな。
正直者は損をするって、本当だったんだな。社会に出ると、短所になっちまうんだよなぁ。嫌な思い出が脳裏をよぎったけど、忘れろ、全部過去のことだ。もうあんな会社に戻ることはないんだし、忘れちまえ。
「うんうん、それでこそトビー君だよ。あっ、タバコ貰っていい?」
「え? ああ、どうぞ」
先輩って喫煙者なんだ。ショック……ってほどじゃないけど、イメージ崩れるな。
でも長話できるきっかけができてラッキーかも?
「あっ、メンソール吸ってるんだ」
むしろメンソール以外を吸う若者っているのだろうか?
いや、いるだろうけども、メンソールタバコが年々増えていることから見て、多数派だと思われる。実際、会社の喫煙所でもメンソールタバコ吸ってるヤツばっかりだったような気がするし。
「ええ。嫌いでしたか?」
「んーん。私もメンソール派」
よかった、なんだかんだで結構好き嫌い分かれるもんな。
吸えない人は本当に吸えないらしいし。
「先輩ってタバコ吸うんですね」
酒はまだしも、タバコ嫌いそうなんだけどな。
人を見た目で判断するなってことか。
「ん、まあね」
「えっと、きっかけとかあるんですか?」
正直、あんまり聞きたくない。
偏見かもしれんけど、こういうのって男の影響だったりしそうだし。
彼氏でもないのに何を言ってるんだって思うかもしれないけど、男ってこんなもんだぜ? 昔フった女が結婚したら、複雑な心境になる的な?
「堂々と仕事サボれるからね」
「なるほ……え?」
今サボりって言った?
元生徒会長が? いやいや、まさか。この人は働き者だったはずだ。
「またまた、生徒会室とかこまめに掃除してたじゃないですか」
「会社じゃいちいち評価してくれないのよ、そんなの」
それはそうかもしれんけど、評価されたくて掃除してたん? 働き者なところに惚れたとまでは言わないけど、結構それで好感度あがってたのよ?
「掃除しても評価上がらないけど、一回掃除した以上は毎日やらないと評価が下がっちゃう。本当に嫌な社会よね」
「あー……電話を積極的に取る人が、たまに取らなかったら文句言われるみたいな」
あるある、めっちゃある。
トータルで言えば俺が一番電話を取ってるのに、忙しいからスルーしたら文句言われんだよな。なんでだよ、俺は電話番として就職したんじゃねえぞ。お前らだって、取る義務あんだろ。
「喫煙所で上司と喋るほうが評価上がるから、仕方なく吸い始めたの」
「お、俺と同じじゃないですか」
「えー? 気が合うねえ」
もう終わりだよ、この国。上司が頻繁に喫煙所に入ってる時点で終わりだけど、まじめに働いてる人が損するって何よ。
ってことは、先輩も会社のせいでタバコにハマっちゃった系か。もしかしたら、日本ってそういう人多いのかも。
「あれ? っていうか今日って火曜日だよね? なんでトビー君はこんな平日の昼間からコンビニでタバコ吸ってるの? 外回り? でも私服よね?」
「俺は自営業ですけど……先輩こそどうしたんです?」
曜日感覚狂ってて一瞬気付かなかったけど、不自然だよな。そりゃ私服の会社もあるだろうけど、この辺って特に会社とかないし、あったとしても会社の喫煙所で吸うよね?
「自営業! すっごーい」
先輩が目をキラキラと輝かせる。やめてくれ、大したことしてないから。実家暮らしだからギリギリ食えてるだけで、一人暮らしだったらお先真っ暗だよ。
「あの、それで先輩は?」
「じゃあさ、缶コーヒー奢ってよ」
何が〝じゃあ〟なのかわからんけど、すぐ近くの自販機で一本奢ってあげた。
コンビニの前なんだから中で買えばいいって思うかもしれんけど、連続で入るの気まずいじゃん? 店員さんは別に気にせんと思うけど。
「缶コーヒー飲むと、吸いたくなるねぇ」
「……もう一本いります?」
「えー、いいの? ありがとう!」
この人もしかして……いや、まさかな。
うん、色々と世話になったし、タバコとコーヒーぐらい……まあ。
憧れの先輩と会話できるなら安いものなんだけど……でも、憧れのままでいてくれないかもしれない。そんな予感がしてならないんだよ。
「それで……どんなお仕事を?」
「このライターカッコよくない? 密林で買ったんだけど」
ああ、密林いいよね。俺も買い物は通販派だし、よく使うよ。うん、そんなことどうでもいいんだよ。ジッポライター見せつけて得意気になるのが許されるのって、学生のうちだけだよ。カチャカチャしながら見せびらかすのって、ちょっとヤンチャな中高生ぐらいだよ。もう絶滅危惧種だよ。
「ええ、良いライターですね。それでお仕事は……」
「あっ、それお菓子? 近くにスーパーあるのにわざわざコンビニで買うなんて、さてはブルジョワだな?」
うん、そのキャラ作り可愛くて昔から好きだったんだけどさ、今は腹立たしいよ。
なんで頑なに質問に答えてくれないんだよ。別にエッチな店で働いてるわけじゃないんだろ? いや、そもそも……。
「もしかして……仕事辞めました?」
いや、まさかな。多分大卒だろ? 二個上だから今年で二十四歳だよな。まだ社会人になってから一年と二カ月ぐらいのはずだし、さすがにやめては……。
「トビー君。いや、トビーフォックス君」
「は、はい?」
なんでフルネーム? いや、フルアダ名か?
こういうフルネームで呼ぶのって、真剣な話をする流れだよな? 知らんけど。
「もう一本タバコちょうだい」
これは辞めてますわ、無職ですわ。
ああ……会いたくなかった……思い出の中でじっとしていてくれ……。
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